五条を無事に送り出してから携帯を確認すると、10分程前に釘崎から連絡が入っていた。

のんびり内容を読んでいたスズだったが、そこに書かれている集合時間が意外と近いことに気づき慌てて走り出す。

指定された場所には既に3人が揃っていて、虎杖が大きく手を振りながら彼女を呼んでいた。


「スズー!!こっちこっちー!」

「ごめん!ギリギリになっちゃった…!」

「全く…あのおっきい子供、本当に手かかるわね。」

「これで全員っスね!すぐ出発するんで、車乗ってくださいっス!」


今回4人を引率する補助監督の新田が声をかけると、皆が皆揃って後ろの席に乗り込む。

事前情報が入ったタブレットが1台しかないため、仲間外れになる助手席に誰も行きたがらないのだ。

ギャーギャーと騒ぎながら乗り込んだ結果、釘崎・伏黒・スズ・虎杖の順で席に収まった。

肝心のタブレットは、真ん中に陣取った伏黒に手渡された。


「釘崎、もっと奥詰めて!」

「はぁ!?もうギリギリまで来てるっつの!スズが小さくなればいいのよ!」

「いや、私も限界だから!何なら半分悠仁に乗っかられてるからね!?」

「だって見えねんだもん!」

「静かにしろ!集中できねーだろ。」

「…あの〜そもそもそこ3人席っスから!警察の人に見つかったら、怒られるの私なんスよ!」


新田のそんな叫びも聞こえていないのか、タブレットを持つ伏黒を挟んだ釘崎と虎杖の言い合いはなかなか終わらない。

そんな中、虎杖に乗っかられて体勢が低くなっているスズの頭にポンと手を置く伏黒。

少し顔を上に向けた彼女に、伏黒は他の2人に気づかれないよう小さく声をかけた。


「平気か?」

「うん、何とかね。でも重いでしょ、ごめんね?」

「全然。んなこと気にしなくていいから、楽な姿勢見つけろ。」

「ふふっ。ありがと!」


そう言って笑顔を見せたスズは、モゾモゾと体を動かす。

結果さっきよりも自分に近づいてきた彼女に、伏黒の表情は人知れず穏やかになるのだった。

それから一転して表情を引き締めると、両脇で未だ騒いでいる2人を黙らせ、新田から今回の案件について話を聞き始めた。


「6月 盛岡 金田太一、8月 横浜 島田治、9月 名古屋 大和広。3人とも同じ状況で死んでるんスよ。

 自宅マンションのエントランスで呪霊による刺殺。しかも全員死ぬ数週間前から同じ苦情を管理会社にチクッてる。

 オートロックの自動ドアが開きっぱなしだって。他の住人に心当たりはなかったっス。」

「でも日付も場所もバラバラ。同じ呪霊にやられたんですか?」

「確かに…季節柄の何かって感じでもなさそうだしね。」

「あぁ。」

「なぁなぁ、自動ドアって呪霊のせい?呪霊ってセンサーとか引っかかんの?」

「センサーじゃなくて、ドアオペレーターの方が呪霊の影響でバカになったみたいっス。

 で、同じ呪霊の仕業かって話っスけど…残穢だけだとちょっと断定はできなかったっス。」

「スズが見ればすぐ分かりそうよね。」

「そうなんすよね〜でもその頃木下さんがちょうど捕まらなくて…

 だから3人の共通点を調べたっス。3人共同じ中学に2年間在籍してたっス。」

「っていうと…昔3人が同じ呪いを受けて、時が経ってそれが発動したって感じ?」

「そうっス。それ濃厚っス。」


新田の言葉に得意げな顔をする釘崎と、彼女に尊敬の眼差しを向ける虎杖。

今回4人は被害者達が通っていた中学校と、彼ら3人の共通の知人に話を聞くため現地へ向かっているというわけ。

話を聞き終わり一旦落ち着きを取り戻した車内で、スズはふと伏黒が持つタブレットを操作し始める。

相変わらず窮屈ではあるが、やっと体を起こせたスズは、初めてまともにタブレットに目を通せるようになったのだ。

不意に近づいた顔の距離に内心ドキドキしつつ、伏黒は優しく声をかける。


「! …スズ、どうした?」

「いや、最初の事件っていつだったっけと思って…」

「最初は…6月だな。」

「6月か……何で6月に急に起こったんだろう。」

「確かにそうだな…」


タブレットに興味を失った虎杖・釘崎を他所に、スズ・伏黒ペアはコソコソとを会話を続けるのだった。



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