伏黒が戦っているのを呪力と音で感じながら、スズもまた目の前の特級呪霊に相対していた。

五条に鍛えられた体術と式神達の力を使い、何とか応戦しているスズ。

だが相手の強さがそれを上回り、彼女も伏黒同様血だらけになりながら戦っていた。


「(ハァ…ハァ…てか強すぎない?これで呪力半分とか有り得ないんだけど…!)」


物影に身を潜め息を整えていたスズは、そんなことを思いながら空を見上げる。

手をグーパーしながら呪力量を測れば、もう半分以下になっていた。


「(ヤバイな…長期戦になったら負ける。うー…せめて領域展開ができれば…)悟先生、どうしよう…!」


思わず漏れた師匠の名前。

と、それをキッカケにして、スズは師匠とのあるやり取りを思い出した。


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それはまだスズが虎杖と出会う前のこと…

1人で領域展開の練習をしていたスズは、今日も今日とて上手くいかず、師匠の部屋を訪ねようとしていた。

いつも通り"コンッココン"という変なノックをすると、中からは"開いてる〜"というユルい言葉が返ってくる。

ドアを少し開けながら顔を覗かせたスズは、小さめの音量で声をかけた。


「先生〜今少しいいですか?」

「いいよ。」


床に座りパソコンで仕事中だった五条は、手を止めて伸びをしながら笑顔で弟子を迎え入れた。

小走りで入って来たスズが横にちょこんと座ると、彼女の顔に残る傷を見て五条は全てを察した。

そして頬の傷を触りながら穏やかに話しかける。


「ふっ。ここの傷治ってねーぞ。」

「いでっ。治し忘れてた…」

「領域展開のことだろ。」

「はい…また出来なかったんです。何でですか…?」

「んー俺が見た限り、スズが領域展開出来ない理由は2つだな。」

「2つ…?」


そうして五条は、師匠らしく弟子に教えを授ける。

まず1つ目は領域展開のイメージができていないこと。

自分の術式に刻まれている領域展開と似たものを見ると、それが呼び水となり会得できることがあると。

もちろん、それが誰のどんな領域展開かは分からないが。

そして2つ目は…


「自信がないこと、だな。」

「え?」

「俺、いつも言ってるよな?領域展開の練習するときは必ず"帳"を下ろせって。何で下ろさないの?」

「だって…どうせ出来ないし…」

「それだよ。その自信のなさが原因だって言ってんの。」

「…」

「俺は、スズは絶対領域展開できるって思ってる。」

「! 何で…?」

「だってそうだろ。オマエの中にある負のエネルギーは、誰の呪力ベースにしてると思ってんだよ。」

「確かに…」

「イメージの方も大事だけど、それより何よりオマエ自身に絶対出すっていう自信がないと、いつまで経ってもできねーぞ?」

「…」

「…大丈夫、スズなら絶対できる。師匠の俺が言ってんだから間違いねーよ。」

「! はい!頑張ります…!」

「よし。ってことで、仕事手伝って。」

「えーっ!なんだよー!そのための嘘だったのかよー!」

「…仕事手伝わせるためだけに、こんな長々と嘘つかねーから。」

「…じゃあ本心ですか?」

「当たり前だろ。背中守ってもらう奴に嘘ついてどーすんだよ。」

「! 先生ー!!」

「バカ!邪魔だっつの!どけ!」


五条の言葉に嬉しくなり、ガバッと彼に抱きつくスズ。

動きが封じられ仕事ができない五条は文句を言いながらも、その表情はとても柔らかくて…

スズの体を優しく受け止めるのだった。


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想い出から現実へと戻って来たスズは、すぐ近くで聞こえた爆発音に身をすくませる。

そう、まだ戦いは終わっていないのだ。のんびりはしていられない。

イメージの方は、正直誰のどんな領域展開が該当するか分からない。

でももう1つの方なら、自分次第でどうにかなる…!


「(私がやられたら、アイツは恵の方に行くに決まってる。何としてもここで倒さないと…大丈夫。私ならできる。)」


"あの五条悟に言われたんだから!"

そう心の中で呟いたスズの顔からは、さっきまでの不安そうな表情が消えていた。

そして不意に自分の頭の中に浮かんできた言葉を静かに発する。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前……領域展開 "破邪万象はじゃばんしょう"。」


手刀で空中に四縦五横の格子を描きながら九字を唱え、領域展開の名を発すると、辺りが闇に包まれる。

そして次の瞬間、目の前にいた特級呪霊はバラバラに切り裂かれていた。

その様子はまるで…両面宿儺が見せた領域展開のようだった。

自分の方へ転がって来た宿儺の指の半分を手に取ると、呪力を使い果たしたスズはその場に倒れ込んだ。


「(恵…大丈夫かな……早く、行かな…きゃ…)」


想いとは裏腹に体は全く言うことを聞かず、スズの意識は深く深く落ちていくのだった。



to be continued...



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