そんなこんなで、気づけばあっという間に1年が経っていた。
中学2年になった2人は、お互いの名前を呼び捨てで呼び合うまでの仲に…!
スズはと言えば…あまりに中学へ行き過ぎて、学校の校務員や伏黒の姉、その他諸々の人達ともすっかり顔見知りだ。
今日も今日とてやって来た彼女は、当たり前のように自販機横に置いてあるベンチでパックジュースを飲んでいる。
「あ、恵〜!お疲れ〜!」
「…自然過ぎて一瞬素通りするとこだったよ」
「あははっ!この中学に馴染んできたってことか〜」
「それだけここに入り浸ってるってことだろ」
「入り浸ってるんじゃなくて、会いに来てるんでしょーが!」
「ふっ…物好き」
スズの横に座り、背伸びをしながらそう言った伏黒の表情は、1年前からは想像できない程に穏やかだった。
だが不意にその顔がサッと鋭くなり、獲物を見つけた獣のように立ち上がる。
「? 恵、どしたの?」
「悪ィ、スズ。今日ちょっと無理」
「え、ちょ、待ってよ!手合わせしてくれるって言ったじゃん!」
スズの叫びに"明日な"と告げると、伏黒は足早に校舎裏へと去って行った。
------
----
--
兄弟子との手合わせを諦めきれず、しばらくジュースを飲みながら待っていたスズだったが、彼は一向に戻ってこない。
諦めて帰るついでに校舎裏を見てみようと思い立ちそちらへ向かうと、不良らしき人物達がボコボコにされて山積みになっていた。
「ケンカに体力使うんなら、私と手合わせしてよ」
ブツブツ文句を言いながらも、スズは兄弟子の事件を軽く済ますために領域展開を発動するのだった。
そうして全員の傷をサクッと治すと、伏黒の呪力を辿って校舎の方へ歩き出す。
と、すぐに目的の人物に出くわした。
「あ、恵いた!」
「オマエ、まだいたのか」
「まだいたのか、じゃないよ。あんなに一般人ボコボコにして!」
「…」
「全く…あの体力を私に使ってよね。…ってか、髪の毛濡れてない?それに何かイチゴの匂いするけど」
「うるせ」
「……あ、津美紀さんに怒られたんでしょ!」
「!」
「そりゃそうだよ。…分かってると思うけど、津美紀さんは恵のこと心配してるんだからね?それってすごく有難いことなんだよ?」
「…帰る」
「へ〜そんなイチゴちゃん状態で?」
「うっ…」
「拭いてあげるから、そこ座って」
そう言ってすぐ近くにあったベンチに伏黒を促すと、彼は思いのほか素直に従った。
大きく息を吐きながら腰を下ろした伏黒の頭を、スズは持っていたタオルを濡らしワシャワシャと拭いてやる。
顔を下に向けながら、されるがままになっている彼は、静かに言葉を発した。
「…俺は悪人が嫌いだ」
「え…?」
「更地みてぇな想像力と感受性で、いっちょ前に息をしてやがる」
「恵…」
「でも善人も苦手だ。そんな悪人を許してしまう。許すことを格調高くとらえてる…吐き気がする。津美紀は典型的善人だ」
「…だから津美紀さんに対して、いつもそんな態度なの?」
「……今から話すことは俺の独り言だ。聞きたくなかったら耳塞いでろ」
タオルを抱えたまま伏黒の隣に座ったスズに、彼はゆっくりと自分の家のことを話し始める。
小1の時に伏黒の父親と津美紀の母親が一緒になり蒸発したこと。
その父親によって、呪術師としての素質を持った自分が御三家である禪院家に売られたこと。
だがそれが若かりし五条悟の計らいで帳消しになり、将来呪術師になることを担保に彼が面倒を見ることになったこと。
「…何が呪術師だ、馬鹿馬鹿しい。俺が誰を助けるってんだよ…」
「あ、恵…!」
最後にそう呟くと、伏黒はスズを置いてその場を後にした。
突然聞かされた伏黒家の内情を上手く消化できず、モヤモヤと考えていたスズの元に、話題に上がっていた人物がやって来る。
「スズちゃん!」
「あ、津美紀さん!恵なら今帰っちゃいましたけど…」
「うん、だと思った。いつも恵のこと気にかけてくれてありがとう」
「いえ、そんな…!たぶんウザがられてると思いますから」
「ううん、そんなことない。あの子、スズちゃんの前だと少し雰囲気が柔らかくなる気がするの」
「そう、ですかね?」
「うん。だからこれからも弟のことよろしくね」
「もちろんです!」
相変わらずの元気な笑顔を津美紀に向けると、スズもまた自分の家へと帰って行くのだった。
- 167 -
*前次#
ページ:
第0章 目次へ
第1章 目次へ
第2章 目次へ
第3章 目次へ
第4章 目次へ
第5章 目次へ
第6章 目次へ
第7章 目次へ
短編 目次へ
章選択画面へ
home