スズの体に全体重を預け、治療を受けていた伏黒。

傷が癒え、体が楽になるにつれ、彼の意識は段々と沈んでいく。

そして気づけば、伏黒は穏やかな寝息を立てて再び眠りに落ちていた。





第53話 起首雷同 ー捌ー





眠れるということは、それだけ体が治ってきているということ。

その事実に胸を撫でおろしたスズは、伏黒を起こさないよう静かに体勢を変え、彼の頭を自分の膝に乗せた。

自分のはもちろんだが、伏黒の傷も全てを治し切ったわけではない。

前半の戦い、負の領域展開、自分と伏黒の治療…この時点でスズは呪力を使い過ぎていた。

特に領域展開での大量消費が尾を引いて、木に寄りかかるとスズもまた意識を失ってしまう。


「(悠仁と野薔薇の呪力が乱れてる…大丈夫かな…合流したら治療してあげ、よ…)」


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2人が意識を失ってからどのぐらい経っただろう…

スズの膝枕で寝ていた伏黒が不意に体を動かす。

その僅かな動きで、スズの意識が一足先に覚醒した。

伏黒に何か異変があったのかと慌てて目を向ければ、そこにはさっきと変わらない穏やかな寝顔があった。

普段は滅多に見せないそのあどけない表情に思わず笑みが漏れ、スズは優しく彼の髪を撫でる。


「(やっぱりカッコいい顔してるよね〜先生と張り合えるんじゃないかな。)」

「……ん、スズ…?」

「あ、ごめん。起こすつもりじゃなかったんだけど…!」


申し訳なさそうな顔でそう言うスズの顔の位置から、すぐに自分が膝枕をしてもらっていることに気がついた伏黒。

おまけに今目が覚める前に感じた頭を撫でられる感触が追い打ちをかけ、彼は堪らず寝たままスズの腰にギュッと抱きついた。


「! ふふっ。恵、小さい子みたい。」

「うるせっ。いいだろ…スズしかいねーんだから。」

「いいけど…もうすぐ悠仁と野薔薇帰ってくるよ?」

「…そん時はそん時。」


甘えるようにすり寄ってくる同期の姿に内心で少しドキドキしながら、スズはからかうように彼の頬をツンツンする。

伏黒も伏黒でそれを嫌がるでもなく、むしろ気持ち良さそうにますます彼女にくっつくのだった。

と、そんな彼の姿に重なる光景がスズの頭に思い浮かぶ。


「…男の人って、この体勢好きなの?」

「ん?何で?」

「いや、その…前に悟先生もやってた、から…」

「(! あの人、もうスズに……だろうとは思ってたけど、やっぱりか。)」


スズが照れ臭そうに発した言葉に、察しがいい伏黒は五条の行動が手に取るように分かった。

それから何かを決意したように、彼はゆっくりと体を起こした。



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