「釘崎大丈夫か?」
「あー…まぁね。痕は残るかもね。毒の方は…まぁ…うん。今から帰って硝子さん起きてるかなぁ。…何モジモジしてんのよ。キモイわよ。」
「初めてなんじゃねぇかと思って…祓ったんじゃなくて殺したの。」
「…アンタは?」
「俺は前に一度…いや、アレを一度って言うのはズルか。3人だ。」
「私より、アンタの方が大丈夫じゃないでしょ。」
「…」
「私はぶっちゃけなんともない。術師やってりゃこういうこともあんでしょ。伏黒じゃないけどさ、結局助けられる人間なんて限りがあんのよ。
私の…人生の席…っていうか、そこに座ってない人間に私の心をどうこうされたくないのよね。
…冷たい?ま、アンタみたいに自分で椅子持ってきて座ってる奴もいるけどね。
フォローするわけじゃないけど、呪霊か呪詛師か気にしてる余裕なかったじゃん。
呪詛師だとして、あのレベルのを長期間拘束する術はない。分かってんでしょ。」
「…でも、アイツ…泣いたんだよ。目の前で弟が死んで。」
「…そっか。」
「俺は自分が…釘崎が助かって…生きてて嬉しい。ホッとしてる。それでも俺が殺した命の中に、涙はあったんだなって…それだけ。」
「…そっか。じゃあ共犯ね、私達。あー…何でもいいからスズと話したい気分。」
「俺も。早く顔見たい。」
「ならさっさと合流するわよ。」
それぞれの戦いを終え、虎杖と釘崎は静かに言葉を交わす。
心身に大きなダメージを受けた2人が揃って思い浮かべるのは、いつも隣で笑顔を向けてくれる同期の姿だった。
スズから貰った勾玉を握り締めながら、虎杖達は最初の河原へと重い足を運んだ。
第54話 共犯
河原へと戻り最初に目に飛び込んできた光景は、木に寄りかかって目を閉じているスズと、その膝に頭を乗せて微動だにしない伏黒だった。
恐る恐る近寄った2人がそれぞれの名前を呼べば、片方の人物だけが反応を示す。
「スズ…?」「ふっ…伏黒?」
「…おっ、戻ったか。良かった、無事で。」
「「ビッ…ビビったーっ!!死んでんのかと思ったー!!」」
「声量落としてくれ…頭痛い…」
呼びかけに応じてムクッと体を起こした伏黒だったが、2人分の声量に頭を抱える。
そんな彼と釘崎が宿儺の指について会話をしている中、虎杖はもう1人の同期の傍へ駆け寄った。
意識こそ戻っていないが、脈も呼吸も安定していることから眠っているだけだと分かる。
少しでも声が聞きたくて…少しでもあの笑顔を向けて欲しくて…
虎杖は優しくスズの体を揺すりながら、彼女の名前を呼んだ。
「スズ。」
「…」
「スズ、起きて。」
「……悠仁…」
「良かった…!大丈夫…じゃないよな。」
「ふふっ。大丈夫だよ、ありがと。悠仁は?動いて平気なの?」
「平気!スズの顔見たら元気出た。」
笑顔の虎杖から出た直球の言葉に、スズはドキドキする心臓を抑えながら同じく笑顔を返した。
呪力が回復せず、まだ立ち上がれないスズの元に集まった3人は、改めて両面宿儺の指について言葉を交わす。
特級呪物である宿儺の指をこのまま放置しておくのはあまりに危険過ぎる、と。
「とりあえず新田さんに連絡して、応急で封印してもらわねぇと。呪霊が寄る。」
「そうだね。何か周りがザワザワし始めてるから、早い方がいいと思う。」
「フム。」
「俺食べようか?」
「残飯じゃねーんだよ。」
「そもそも普通は食べちゃダメなやつだからね、アレ。」
「オマエの指の許容量はハッキリ分かってねぇんだ。食うな。でも一番元気そうなオマエに渡す。念を押すが、食うなよ。」
「(犬並みの理解力だと思われてるな…)」
そんなやり取りの後、伏黒は虎杖へ指を手渡す。
だが受け取ろうとした虎杖の手に突如口が現れ、そのまま指を飲み込んでしまったのだ。
目の前で起きた出来事に、スズ・伏黒・釘崎は目を見開いた。
「「食うなっつったろ!!」」
「え、俺ェ!?」
「悠仁、体は!?何ともない!?」
「だ、大丈夫!にしてもコイツ…マジで!!今回もろくに働かねぇし!!」
「確かに静かだったね。何も企んでないといいんだ…け、ど…」
「「「スズ!?」」」
普通に喋っていたスズの意識が突如なくなり、彼女はその場に倒れ込む。
一番近くにいた虎杖が状態を確認すれば、さっきとは様子が違っていた。
脈も呼吸もなく、ただ静かに呪力が流れているだけ…
この状態は何度となくスズを襲っているものだった。
「またアイツだ…」
「アイツって、宿儺のことか?」
「あぁ。宿儺の生得領域に連れて行かれてる。」
「戻ってくるわよね?」
「宿儺の気が済めばな。」
「クラァッ!!!オマエらぁ!!!」
「あ、新田さん。」
「ブチ切れてるわね。」
「じゃ、帰るか。スズは俺が運ぶよ。」
橋の上から聞こえてくる怒鳴り声に、スズ以外の3人は揃って顔を上げる。
まだ入ったばかりの1年坊が言うことを聞かず勝手に行動したとあれば、新田の怒りはごもっとだ。
座り込んでいる伏黒に手を貸した後、虎杖はスズを横抱きにして歩き始めるのだった。
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