2日後の早朝。

出張していた五条が、予定よりもだいぶ早く戻って来た。

任務が想定より楽だったこともあるが、それより何より教え子達の任務内容を聞いたら居ても立っても居られなくなったのだ。

高専に到着するや否や、新田から詳細な報告や呪霊の正体などをヒアリングした五条。

続けて4人のケガの具合を家入に確認し、一旦全ての状況を把握したのだった。

そうして彼が向かったのは、会いたくてしょうがなかった愛弟子の部屋。

朝早いこともあり、控えめにノックをすると、すぐに中から明るい声が聞こえてくる。


「はーい!」

「…入っていい?」

「もちろんです!おかえりなさい、悟先生!」


ベッドの上で体を起こしていたスズに笑顔でそう言われると、五条は嬉しそうに"ただいま"と返した。

そしてオフモードへの切り替えとして目隠しを外すと、ベッド脇にイスを持ってきて座る。

呪力も外傷もすっかり回復している姿に、彼はホッと胸を撫で下ろすのだった。


「任務大変だったな。」

「もうヘロヘロです。あ、でもね先生!私、領域展開できたんです!」

「! そっか。まっ、俺は昔から言ってたけどな…オマエは絶対できるって。」

「はい!先生の言う通りでした!」

「当然だろ。…よく頑張った。偉かったな。」

「へへっ。ありがとうございます!」


五条に頭を撫でられながら褒められると、スズは満面の笑みを見せる。

そのまま頬に手を持っていけば、想い人の顔は途端に赤くなった。

それはもちろん手が触れている位置もあるだろうが、それ以上に五条の眼差しが熱を帯びていたからだ。


「せ、先生…?」

「会いたかった。」

「!」

「傍にスズがいなくて、めちゃくちゃ寂しかった。…今日ここ泊まっていい?」

「え、あ、あの…!」

「それとも俺の部屋来てくれる?」

「あ、わ、私はどっちでも…!」

「んー…やっぱここだと悠仁達の目があるから、俺んち行こっか。」

「押忍…!」


そうと決まれば、すぐに実行するのが五条悟である。

スズがラフなパーカー姿に着替えるのを待ってから、術式を使って一瞬で自宅へと移動した。

そして自室でお茶を飲みながら、五条は今回の案件に関する詳細をスズへと話し始める。

虎杖・釘崎ペアが戦った相手は、例のブツの受肉体だということを…


「例のブツって、交流会の時に盗まれたアレのことですか?」

「そっ。それとあの事件自体も怪しいんだ。」

「というと?」

「交流会の流れとか、俺らやスズ達の動き、敷地内の地理…どれに関しても敵はかなり詳しく把握してた。」

「それって…うちの情報が外に漏れてるってこと?」

「うん。でも情報は自然には出て行かない。」

「! …誰かが漏らしてる?」

「俺はそう思ってる。だから今、歌姫に京都校の方を探ってもらってんの。」

「そうだったんですか…先生、そんなことまで抱えてたんですね。」

「まぁね。」

「大丈夫?疲れてないですか?」

「! …疲れてる、って言ったら癒してくれる?」

「私にできることでしたら!」

「ふっ。じゃあ…もっと近く行っていい?」

「え、あ、はい!」


"そっち系か…!"と急にアワアワするスズを面白がりながら、五条は彼女の背後に回る。

そしてギュッと抱きつくと、片手でおもむろにスマホを取り出し、とある人物の番号を呼び出した。

五条が自分越しにスマホを操作しているため、位置的に自然と画面が目に入ってしまうスズ。

プライベートな内容もあるだろうと、目を閉じ顔を逸らしているのに気づいた五条は、彼女の動きにまた笑顔を見せた。


「ふっ。スズ、画面見てていいよ?」

「いや、でも、見せたくないこともあるでしょうし…!」

「そんなのあったら、最初からこんな態勢でスマホ出さねーよ。」

「それは…確かに。」

「だろ?だから俺に寄りかかって、リラックスしてな?」

「はい…!電話の相手は歌姫先生ですか?」

「うん。途中経過聞いてみようと思って。あ、歌姫の報告聞いても電話の間はしーっ、な?」

「らじゃ!」


素直な教え子に少し笑みを見せると、五条は歌姫の番号を押した。

と、すぐにスピーカー状態にしたスマホから相手の声が聞こえてくる。


『もしもし。』

「あ、歌姫?僕だけど、ちょっと聞いてよ。いやぁ〜今回の案件さ…指の呪霊だけじゃなくって、遺体を調べてビックリ!!

 なんと例のブツの受肉体だったの。特級相当を各個撃破!!今年の1年は豊作だね。僕の指導者としての腕がいいのかな。」

『オフの日にアンタと長話したくないのよね。飲み会の幹事の件でしょ。』

「どう?目星はついた?」

『全然。私含め、皆忙しいの。どうする?学生にも声かけてみる?』

「僕下戸だからノンアルでも構わないよ。引き続き、声がけよろしく。」

「…飲み会って?」

「カモフラージュ。歌姫の周りは何が聞いてるか分かんないから、直接的な単語は避けた方がいいと思って。」

「なるほど…!てことは今の会話だと…学生も疑ってますか?」

「考えたくないけどね。」


スズの頭に顎を乗せながらそう言って、五条はまたもスマホを操作する。

自身の口座の振込画面を呼び出すと、ササッと金額を入力し、とある人物へ送金した。

その額を見るや、スズは思わず前のめりになる。


「えっ!?」

「いでっ!オマっ…急に動くなよ。顎打っただろ。」

「あ、ごめんなさい!でも先生、今の金額…桁間違ってない?」

「うん、大丈夫だよ。冥さんに仕事頼むときはいつもあのぐらい払ってるから。」

「1000万って…先生、マジでお金持ちなんですね。」

「御三家の当主だからね。…結婚したら玉の輿だよ?」

「玉の輿…あんまり興味ないです。」

「そうなの?」

「はい。例えば…私がいつか結婚したいって思った時に先生が一文無しだとしても…私は先生の奥さんになりたいです。」

「え?」

「私が結婚するのは、先生がお金持ちだからじゃなくて…悟先生が好きだからです。お金は関係ないです。」

「!」

「あ、もしもってことですよ!?ま、まだ、その…告白の返事は、できないから…って、先生?」

「……俺も好き。」


想い人の急な告白に五条は堪らなくなり、スズの肩に顔を埋めてギュッと抱きついた。

抑えきれずに出た言葉は彼女に届くことはなかったが、五条の表情は何とも幸せそうなものだった。



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