映画の後に4人で夕飯を食べ、寮へ戻って来たのは辺りがすっかり暗くなってからだった。
夕飯の時からスズと虎杖は終始映画の感想を語り合っており、それぞれの部屋の前へ到着してからも話が途切れることはなかった。
そんな2人を呆れたように見つめていた釘崎と伏黒は、前半の任務の疲れもあり、さっさと自室へと戻って行く。
「でさ、その後主人公が泣いてるとこで号泣!」
「私も!鼻水止まらなかったもん…!」
「アンタ達いつまで話してんのよ。それさっきも言ってたわよ?」
「何回話してもいいじゃん!ね?」
「だよね〜!また感動が蘇るし!」
「はぁ〜付き合ってられないわ。おやすみ〜」
「俺も寝る。…スズ。」
「ん?」
「……いや、何でもない。早く寝ろよ。」
「うん!」
名残惜しそうにスズとの会話を終えると、伏黒もまた自室へと入って行った。
残された2人はそれからしばらく話をしていたが、さすがに疲れてきたのか同時に欠伸が出る。
それを機に、スズと虎杖も部屋へ戻ることになった。
だがスズが歩き始めるとすぐに、虎杖は彼女へ声をかける。
「俺さ…」
「うん。」
「スズのこと好きみたい。」
「…え?」
「スズといると楽しいし、安心するし、いつも前向きになれるんだ。」
「悠仁…」
「今日の映画だってさ、同じとこで笑って泣いて…そういうのめちゃくちゃ嬉しかった。
こういう気持ち初めてだから、俺も戸惑ってる。だから返事はすぐじゃなくていい。スズの中で答えが出たら、その時に聞かせて?」
「う、うん…!分かった。」
「うん。って言っといてなんなんだけどさ…少しでいいから、抱きしめちゃ…ダメ、かな?」
「へっ!?」
「何か、その…スズに触れたくて…」
「……汗臭い、かもよ?」
「! ははっ!俺だって同じだから平気だよ。」
そう言うと虎杖はスズへ一歩近づき、自分よりも小柄なその体を優しく抱きしめた。
スズがソワソワしているのを体で感じると、虎杖は嬉しくなって更にギュッと力を込める。
「全然じゃん。むしろいい匂いするけど。」
「あ、あんまり嗅がないでよ…!」
「あははっ。ごめんごめん!…スズ〜」
「ん?」
「…やっぱスゲー好き。」
「!」
「女の子ってさ、みんなこんなにやらかいの?」
「へ?や、柔らかい…かな?」
「うん。何かフワフワして気持ちいいよ?女子同士だと感じないの?」
「んー野薔薇とくっついてる時はあんま感じないけど…」
「そっかぁ。じゃあ今こんなに気持ちいいのは…」
「?」
「相手がスズだからかな?」
体を離し目を合わせると、虎杖はそう言って照れ臭そうに笑った。
五条や宿儺とは違う穏やかで初々しい雰囲気に、スズは更にドキドキを増加させる。
すぐに目を逸らし、キョロキョロと落ち着かない彼女の姿に、虎杖はとても嬉しそうだ。
「スズって分かりやすいね。めちゃくちゃ顔赤い。」
「ゆ、悠仁のせいでしょ…!」
「……少しだけ俺の部屋来ない?」
「えっ!?」
「あ、別に変な意味じゃないから!手出すとかは絶対ない!!…そういうのは、その…両思いになってからの方が…いいと思うから。」
「そ、そう、だね。」
「うん。ただもう少し…スズと一緒にいたい。…ダメ?」
「…お茶、出してくれる?」
「! もちろん!甘いものもつける!」
「ふふっ。じゃあ、お邪魔します…!」
「やった。行こっ!」
1日の終わりとは思えない全開の笑顔を見せる虎杖は、スズの手を引いて自室へと向かう。
こうして、それぞれの夜が更けていくのだった。
「…やっぱ虎杖もか。」
2人のことが気にかかり、ドアの内側から動けずにいた伏黒は一連のやり取りを聞いてしまっていた。
そうだろうと思っていても、やはり実際に目の当たりにすると心がしんどいようで…
深いため息と共にドアに背を預け座り込んでいる姿は、誰にも気づかれることはなかった。
第3章 fin.
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