とある日の呪術高専。

高専内にある五条の執務室に、師匠と弟子の姿があった。

メインデスクで何か書類を確認している五条と、客用の応接セットに座りパソコンに向かっているスズ。

書類作成の中でふと師匠の方へ目を向ければ、そこには仕事をしてるのかどうか分からないぐらいボーっとしている彼の姿があった。


「先生、眠いの?」

「うん…昨日、ちょっと遅くて。」

「仕事ですか?」

「ううん。オマエのこと考えてた。」

「ま、またそういうこと言う!」

「だって本当のことだし。」

「…そんなに遅くまで、何考えてたんですか?」

「スズとのデートプラン。いろいろ考えてたら、楽しくなっちゃってさ。」

「!」

「ていうかさ、本当に行きたいとこないの?まさか遠慮してるとかじゃねーよな?」

「してな「それとも楽しみにしてんの俺だけ?」

「そんなことないです!私だってすごく楽しみにしてます!でも本当にどこでもいいんです。」

「え〜…」

「だって先生と一緒なら、きっとどこ行っても楽しいから。」


穏やかな笑顔でそう言ったスズは、またすぐにパソコンに向かって書類を作り始める。

無意識に放たれるスズからの真っ直ぐな言葉に、五条の表情は途端に柔らかくなった。

最早仕事どころではなくなった彼は、優しい声で想い人の名前を呼んだ。


「スズ。」

「ん?何ですか?」

「ちょっとこっち来て。」

「? あ、はい。」


五条に呼ばれ、スズはメインデスクを挟んだ反対側に駆け寄った。

だが"そこじゃなくて、こっち"と言いながら、彼は自分が座っている側にスズを誘導する。

そうしてすぐ傍に来た彼女の腰に、五条は座ったまま手を回し引き寄せた。


「さ、悟先生!?」

「…スズはさ、何で俺が喜ぶようなことばっか言ってくれんの?」

「えっ…?」

「もう俺、スズと一緒にいれるだけでいい。」

「! でも私…先生が考えてくれたデートも行ってみたいです。」

「そう?じゃあ…2回デートしよ?」


上目遣いでそう言って笑いかける五条に、スズは照れ臭そうな笑顔で元気よく"はい!"と返事をした。

それからしばらくスズのお腹に頭をつけて抱きついていた五条だったが、その呼吸がだんだんと深くゆっくりしたものになっていく。

師匠の変化に気づいたスズは、笑いながらポンポンと彼の頭を撫でた。


「先生。」

「…ん〜?」

「ふふっ。少しお昼寝しましょ?」

「んー…でもこの後…皆に伝えなきゃ、いけないこと…あるし。」

「あ、そうなんですか?でも皆それぞれ任務で、夕方まで帰ってこないから。少しぐらい寝ても平気です。」

「…うん、そっか…」


その言葉を最後に、五条はスズに寄りかかったまま寝息を立て始めた。

静かに彼の体をイスの方へ預けると、弟子は師匠の分まで仕事をするべく、またパソコンへ向かうのだった。





第56話 懐玉





イスで眠る五条の意識は10年ほど時を遡る。

視点が降りてきた先には、数人の呪術師達の姿があった。

物語は、現代最強呪術師・五条悟が高専の2年生だった時から始まる…


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「助けに来たよ〜歌姫、泣いてる?」

「泣いてねぇよ!!敬語!!」


先輩である庵歌姫に対し生意気な口調で話しかけるのは、目隠しの代わりにサングラスをかけた高専2年の五条悟である。

相手が先輩だろうが、級が上だろうが関係なく不遜な態度を取るあたりは、さすが御三家の当主といったところか。


「泣いたら慰めてくれるかな?是非お願いしたいね。」

「冥さんは泣かないでしょ。強いもん。」

「フフフ…そう?」

「五条!!私はね!助けなんて…」


自分を無視し、1級術師の冥冥と気楽に会話をしている後輩に対し、歌姫は再びイライラを募らせる。

と、五条に対し声を上げようとしたそんな彼女の背後に突如大型の呪霊が現れた。

反応が遅れた歌姫を助けたのは…


「飲み込むなよ、後で取り込む。悟、弱い者イジメはよくないよ。」

「強い奴イジメるバカがどこにいんだよ。」

「フフッ。君の方がナチュラルに煽っているよ、夏油君。」

「あ"。」


そう言ってバツが悪そうな表情を見せるのは、五条の同期である夏油傑だった。

彼の同期には、あと女性陣が2人いる。

その2人は揃って歌姫の心配をして声をかけた。


「歌姫センパ〜イ、無事ですか〜?」

「ケガとかされてないですか…!」

「硝子!!リン!!」

「心配したんですよ。2日も連絡なかったから。」

「お元気そうで安心しました。」

「硝子!!リン!!アンタ達はあの2人みたいになっちゃ駄目よ!!」

「あはは。なりませんよ、あんなクズ共。」

「ふふっ。よく注意しておきます。」


優しい言葉をかけてくれる可愛い後輩・家入硝子と森下リンに、歌姫はギューと抱きついた。

そんな女子3人の様子を不満そうに見つめていた五条は、歌姫の腕からリンだけを引っ張り出す。

またこちらに怒りを向ける歌姫をスルーして、五条はリンに後ろから抱きつくように寄りかかりながら話し始めた。


「ちょっと!何で私からリンを奪うのよ!!」

「コイツは俺のなの。」

「いつそんなこと決まったのよ!」

「ずーっと前から。リンとはガキの頃から一緒なんだから当然でしょ。」

「ちょっと悟、私そんなこと聞いてないけど。」

「今言ったじゃん。」

「(当主感すごいな…!)」

「キーッ!!いちいちムカつくわね!…っていうか、2日?」

「あーやっぱ呪霊の結界で時間ズレてた系?珍しいけどたまにあるよね。冥さんがいるのにおかしいと思ったんだ。」

「そのようだね。それはそうと君達…"帳"は?」


冥冥の一言で、チーム2年の面々は一気に青ざめるのだった。



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