「悟、ゲンコツの1つや2つは覚悟しときなよ?」

「何で?」

「何でって…怒られるようなことしたのが悟だけだから。」

「ふ〜ん…でも俺が怒られるってことは、リンも怒られるってことだからな?」

「え、それこそ何でよ!」

「昔からそうだったじゃん。」


高専への帰り道。

前を歩く夏油と家入に続く五条の隣には、彼の言い分に文句を言う小柄な少女がいる。

彼女の名前は森下リン。

家が隣同士ということもあり、幼き日からずっと一緒に過ごしてきた2人は、いわゆる幼馴染という関係だ。

方や呪術界における御三家の当主、方や無名の陰陽師一家の一人娘という身分の差がある五条とリン。

だがそんなものを物ともせず、2人はどこへ行くのも何をするのも一緒で、近所では評判の仲良しコンビだった。

自由奔放な五条としっかり者のリンという組み合わせは、同い年にも関わらず、近所の人達から"お姉ちゃんと弟みたいね"と言われていた。

その関係性は、揃って高専へ入学してからも変わらずで…


「昔も今も悪いことしてるのは悟じゃん!私は巻き込まれて怒られてるだけだからね!?」

「一緒に怒られてるってことは、一緒に悪いことしたってことでしょ。」

「何、その理屈!」

「俺とリンは一心同体だから、まぁしょうがないよな〜」

「しょうがなくないから!」

「悟〜リン〜置いてくよ〜」

「もう置いてっていいんじゃない?」

「ちょっと待って傑君、硝子ちゃん!ほら、悟早く!」

「向かってるとこ一緒なんだから、そんな焦んなくていいだろ。……ちょっと待てって!リン!」


口ではそう言いながらも、自分から離れていくリンに五条は落ち着かず、小走りでその後ろ姿を追うのだった。


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高専へ到着するなり、すぐに担任の夜蛾に呼び出された4人。

彼の前で正座をさせられ尋問が始まるや否や、犯人はすぐに判明した。

そしてリンの予言通り盛大なゲンコツを貰った五条の頭には、見事なたんこぶが生成されていた。

教室に帰って来て早々、自分のイスに座りながら五条はブツブツと文句を口にする。


「そもそもさぁ、"帳"ってそこまで必要?別に一般人パンピーに見られたってよくねぇ?呪霊も呪術も見えねぇんだし。」

「また悟はそういう極端なこと言う…」

「駄目に決まってるだろ。呪霊の発生を抑制するのは、何より人々の心の平穏だ。

 そのためにも、目に見えない脅威は極力秘匿しなければならないのさ。それだけじゃない…」

「分かった分かった。弱い奴等に気を遣うのは疲れるよ、ホント。」

「"弱者生存"…それがあるべき社会の姿さ。弱気を助け、強気を挫く。いいかい、悟…呪術は非術師を守るためにある。」

「それ正論?俺、正論嫌いなんだよね。」

「…何?」

呪術ちからに理由とか責任を乗っけんのはさ、それこそ弱者がやることだろ。ポジショントークで気持ち良くなってんじゃねーよ。オ"ッエー」

「リン、あとは任せた。」

「え、ちょっと硝子ちゃん…!私も行く…って、悟!?」

「外で話そうか、悟。」

「寂しんぼか?1人でいけよ。」


男子2人の険悪な雰囲気を察知した家入が教室外へ逃げるのに合わせて、リンも立ち上がろうとしたのだが…

隣に座っていた五条の長い手に捕まり、あえなく失敗する。

互いの術式を発動しようとする五条と夏油を、立ち上がりハラハラしながら心配そうに見守るリン。

と、そこへガラッという音と共に夜蛾が教室へと入って来た。


「ちょ、ちょっと2人共…!落ち着いて!」

「! リン、何してるんだ?あと硝子はどうした?」

「さぁ?」「便所でしょ。リン、何してんの?座ってなきゃダメじゃん。」

「(どの口が言ってんのよ!)」

「まぁいい。この任務はオマエ達2人に行ってもらう。」

「「…」」

「なんだそのツラは。」

「「いや、別に。」」

「リン、コイツら何かあったのか?」

「いえ、何も!気にしないでください。」

「…正直荷が重いと思うが、天元様のご指名だ。」

「「「!!」」」

「依頼は2つ。"星漿体"…天元様との適合者。その少女の護衛と抹消だ。」


五条と夏油に言い渡された特別任務。

リンをも巻き込むこの任務で、五条は大きな転機を迎えることになる。

それが後にリンや夏油にも影響を及ぼすことを、この時の3人はまだ知らずにいたのだった。



to be continued...



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