護衛2日目 沖縄

拉致犯に指定された取引場所に到着したリン達は、昼前に無事黒井を救出し、犯人への尋問を終えた。

そして今、一行はそれぞれ水着に着替え海へと繰り出したというわけ。


「まさか盤星教信者…非術師にやられるとは。自分が情けない。」

「不意打ちなら仕方ないですよ。私の責任でもある。」

「まぁまぁ。無事だったんだからオールオッケーです!傑君も。」

「ふっ…そうだね。」

「不意打ちだったんですかね。"Q"の一件で気をつけてたつもりだったんですけど…イマイチ襲われてた時の記憶が…

 というか、飛行機で来たんですね。大丈夫だったんですか、襲撃とか。」

「悟は目がいい。アイツが離陸前に乗客乗員・機内外をチェックして、飛行中は私の呪霊で外を張りました。

 理子ちゃんの周りはリンの結界で守りましたしね。下手な陸路より安全でしたよ。」

「おい、リン!!ちょっとこっち来い!!」「早く来るのじゃ!!」

「ふふっ。何、急に?」


海辺で遊んでいた五条と天内に呼ばれたリンは、小走りでそちらへ向かう。

ナマコを見つけてはしゃぐ2人の様子に、彼女もまた弾けるような笑顔を見せた。

命を狙われている最中にこんなにのんびりと観光をしていて良いのかと危惧する黒井に、夏油は穏やかに言葉を発する。


「言い出したのは悟ですよ。アイツなりに理子ちゃんのことを考えてのことでしょう。でもそろそろ…悟!リン!時間だよ。」

「あ、もうそんな時間か。」「あれ、意外と早いな。」

「…」


楽しい時間の終わりを告げられた途端、天内は目に見えてシュンとする。

その姿を見た五条とリンは静かに視線を合わせると、小さく頷き合った。

そして…


「傑、戻るのは明日の朝にしよう。」

「!」

「…だが。」

「天気も安定してんだろ。それに東京より沖縄の方が、呪詛人じゅそんちゅの数は少ない。」

「あははっ。何それ!理子ちゃん、黒井さん、向こうで休憩しましょ!」

「うむ!」「はい。」


女子3人がパラソルの方へ向かったのを見送ると、夏油は五条と静かに会話を始める。

沖縄滞在を延ばしたのは天内のことを思っての提案だろうが、彼には気がかりなことが1つあった。


「悟、昨日から術式を解いてないな。睡眠もだ。今晩も寝るつもりないだろ。本当に高専に戻らなくて大丈夫か?」

「問題ねぇよ。桃鉄99年やった時の方がしんどかったわ。それに…オマエもリンもいる。」

「ふっ…ならせめて、今から1時間だけでもリンのところへ行ってきたらどうだ?」

「は?何でだよ。別に平気だっつーの。」

「…の割に、足がそちらに向いてるぞ。」

「…」

「大丈夫。2人のことは私がちゃんと見ているから。」

「……ちょっと行ってくる。」


夏油に背中を押され、五条はゆっくりと女性陣がいるパラソルの方へ歩き出す。

口では何だかんだと言いながらも、術式を発動し続けている体は当然の如く疲れていて…

パラソルの下で天内達と談笑しているリンの姿が視界に入ると、彼の歩みは少し早くなった。


「リン。」

「ん〜?…悟、大丈夫?顔色が…って、うわっ…!悟!?」


リンの言葉を遮りその腕をグッと掴むと、唖然としている天内と黒井を残して、五条は彼女を連れてその場を後にする。

何も言わずズンズンと足を進めていた五条は、少し離れたところにある人気ひとけのない休憩場でようやく足を止めた。

そして掴んでいた腕を引き寄せ、リンにギューッと抱きつくのだった。

先程とは違い低く甘えたような声で名前を呼べば、幼馴染は笑顔を見せながら優しく声をかける。


「リン〜…」

「ふふっ。悟、眠いんでしょ。」

「うん、今MAX…」

「お疲れ様。よく頑張ってるね。エライエライ。」

「ガキ扱いすんな。……傑が1時間、2人のこと見ててくれるって。」

「そっか。じゃあちゃんと体休めないとね。とりあえずここ座って?何か飲み物持ってくるよ。」


休憩場のベンチに五条を座らせると、飲み物を取りに行くためリンは彼の傍を離れようとする。

が、それは眠気MAXのはずの彼によって阻まれてしまった。


「…どこ行くんだよ。」

「え、今言ったじゃん。飲み物取ってくるの。少し水分も取らないと。」

「いい。今は飲み物よりオマエの方が必要。…ここにいて。」

「(これ普通の女子がやられたら、一瞬で落ちちゃうんだろうな〜)」

「何だよ。」

「ふふっ、何でもない。分かった。いるよ。」


甘えモード全開かつ上目遣いのイケメンの破壊力は凄まじい。

それを平常心で相手にできるのは、恐らくリンだけだろう。

それから彼女は五条と目線を合わせるようにしゃがむと、ゆっくり穏やかに話しかける。


「少し寝て欲しいけど、どういう体勢が楽?」

「…とりあえずリンにくっつきたい。」

「くっつくかぁ…抱っこする?」

「ふっ、バーカ。それじゃ寝れねーよ。…ここ座って。」


ベンチを叩きながらそう言って、五条はリンを自分の足の間に座らせる。

そして背後から彼女の腰に手を回すと、肩に顔を埋めて深く息を吐いた。

リンの体から発出される正のエネルギーで守られることで、五条は術式の発動はそのままに体を休めることができるのだ。

そうしてしばらくすると、リンの背後から気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。



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