五条家に生まれた六眼のガキを、面白半分で見に行ったことがある。

後にも先にも、背後に立った俺が気取られたのはこの時だけだった。

だから削った…オマエが鈍るまで。

でも俺の気配を感じ取る奴がもう1人いたのは予想外だ。

この敷地に入ってから、コイツだけが俺の存在を何となくだが感じ取ってた。

名前は…リン、だったか。

女の相手するのは嫌いじゃねぇ…あとでからかいに行くか。





第61話 懐玉 ー漆ー





自分のことを刺した男を、術式で空中へ放り投げる五条。

そこへすかさず夏油が芋虫のような呪霊を放ち、相手を一飲みにする。

それを確認してから、夏油は五条とリンの傍へ駆け寄った。

名前を呼ばれた五条は、傍らで震えているリンを抱き寄せながら、彼を制止するように手を向ける。


「悟!!」

「問題ない。術式は間に合わなかったけど、リンのお陰で内臓は避けたし、その後呪力で強化して刃をどこにも引かせなかった。

 ニットのセーターに安全ピン通したみたいなもんだよ。マジで問題ない。天内優先、アイツの相手は俺がする。傑達は先に天元様の所へ行ってくれ。」

「リンは…?」

「大丈夫。珍しく俺が血流したから、それに動揺してるだけだ。でも今すぐには行かせたくない。落ち着くまで俺の傍に置いとく。」

「分かった。…油断するなよ。」

「誰に言ってんだよ。」


そう言って五条は少し笑みを見せ、夏油達を送り出した。

それから自分の腕の中で震えている幼馴染の顔を覗き込むと、背中を優しく叩きながらいつもの調子で声をかける。


「おいリン、大丈夫か?俺の目見ろ。」

「……悟…生きてる…」

「バーカ、勝手に殺すんじゃねーよ。俺は大丈夫だ。」

「うん…うん…良かった…!ごめん、もう大丈夫。ケガ治すね。」

「おう、頼む。アイツたぶんもうすぐ出てくるから、オマエは結界張って端の方にいろ。で、落ち着いたら傑の後を追え。」

「(私がいたら、悟はこっちまで気にかけなきゃいけなくなる。傍にいたいけど、足手まといにはなりたくない。)…分かった。」


言いたいことやしたいことはたくさんあれど、この状況を踏まえ全て飲み込んだリンの姿に、五条は満足そうに笑みを見せる。

そしてすっかり治った傷の礼を言いながら彼女の頭を撫でると、呪霊を切り裂いて出てきた謎の男と向かい合うのだった。



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