五条の喉元に天逆鉾を突き刺した男は、そのまま呪具を股下まで振り下ろす。
そうして上半身を切り裂くと、次に右足に狙いを定めて呪具を何度も突き刺した。
その時点で最早五条の意識はなく、長身で細身な体はあっけなく破壊された。
男は口元に笑みを浮かべながら、ダメ押しとばかりに、生気のない目をした五条の額に短刀をお見舞いするのだった。
第62話 懐玉 ー捌・玖ー
夥しい血の中に横たわり、ピクリとも動かない幼馴染の姿。
どこからどう見ても、生きている可能性は0である幼馴染の姿。
それを目の当たりにし、リンはその場に崩れ落ちた。
色も音も、血の臭いですら感じていないような状態の彼女を横目に見ながら、男は静かにその場を後にした。
茫然自失の状態がどのぐらい続いただろうか…
リンはゆっくり立ち上がると、フラフラと五条の元へ向かって行く。
そして血がつくのも構わず傍らに座り込むと、自身の正のエネルギーで幼馴染の体を包み込んだ。
だがこのエネルギーは反転術式とは違うため、今の五条を治す程の力はない。
それでもリンは、その行為をやめようとはしなかった。
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一方、天内を連れて高専内へと向かっていた夏油は、天元の膝下である"薨星宮 本殿"へ到着していた。
途中で黒井と別れ1人になった天内に対し、この後の行動を穏やかに話していく夏油。
今いる場所から先は、招かれた者しか入れない。
同化するその日まで、天元様自らが守ってくれる、と…
「…それか引き返して、黒井さんと一緒に家に帰ろう。」
「……え?」
「担任からこの任務の話を聞かされた時、あの人は"同化"を"抹消"と言った。あれはそれだけ罪の意識を持てということだ。
うちの担任は脳筋のくせに、よく回りくどいことをする。君と会う前に、悟やリンとの話し合いは済んでる。」
それは数日前、天内のマンションへ向かっていた時のこと…
"星漿体のガキが同化を拒んだ時ぃ!?"
"なるほど…確かにないとは言えないかもね。"
"……そん時は同化はなし!!"
"クックッ…いいのかい?"
"あぁ?"
"天元様と戦うことになるかもしれないよ?"
"ビビってんの?大丈夫、なんとかなるって。"
"ふふっ、そうだね。だって2人は…"
「私達は最強なんだ。リンのお墨付きも貰ってる。理子ちゃんがどんな選択をしようと、君の未来は私達が保障する。」
夏油が少し笑みを見せながらそう言えば、天内は静かに自分の気持ちを打ち明け始める。
生まれた時から星漿体で、でもそれが自分にとっては普通で、同化することも受け入れていた。
どんなに辛くても、いつかそういう感情はなくなると思っていた。
「…でもっ、でもやっぱりもっと皆と…一緒にいたい…!もっと皆と色んな所に行って、色んな物を見て…もっと!!」
「ふっ。帰ろう、理子ちゃん。」
「…うん!!」
夏油が優しく差し伸べた手を取ろうと、笑顔を見せる天内。
だがそんな彼女の頭を一発の銃弾が貫いた。
目の前の光景を受け入れられない夏油の耳に、少し前に聞いたあの男の声が聞こえてくる。
「ハイ、お疲れ。解散解散。」
「なんでオマエがここにいる。」
「なんでって…あぁ、そういう意味ね。五条悟は俺が殺した。リンももう廃人になっちまったかもな。」
「そうか…死ね。」
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