夏油が謎の男と対峙している頃、建物の外は異様な程の静けさに包まれていた。

血溜まりの中で息絶えている五条の傍らには、呪力を使い果たし彼の上に倒れ込んでいるリンの姿があった。

そんな動きのない景色の中に、不意に変化が現れる。

息のない五条の右手がピクリと動いたのだ。

それから一度体がビクッと震えると、次の瞬間には自発呼吸が始まり、目にも生気が戻ってくる。

突然の変化に自分でも驚きを隠せない五条だったが、ふと体に人の重みを感じた。


「……リン…?」

「…」

「(呪力がない…俺に使ったのか。)リン。リン!」

「……えっ…悟…?」

「重くて起き上がれねぇんだけど。」


少し首を持ち上げ、笑みを見せながらそういう五条の姿に、リンは戸惑いを隠せない。

さっきまで間違いなく死んでいた人物が突然声をかけてくれば、それは驚くに決まっている。

だが驚き戸惑っていたのは数秒で、すぐにその顔は涙と笑顔でいっぱいになった。

そしてゆっくりと体を起こした幼馴染の名前を呼びながら、ガバッと勢いよく抱きつくのだった。


「悟…!!」

「おっと…!感動の再会、ってやつ?」

「うぅっ…良かった…生きてる…」

「当たり前だろ。ったく…泣いたり、笑ったり、忙しい奴だな。」

「しょうがないでしょ…!…でも、何で生き返れたの?」

「オマエのお陰だよ。リンが正のエネルギー注ぎまくってくれたから、それをキッカケに出来なかったことが出来るようになった。」

「出来なかったこと……まさか、反転術式!?」

「そっ。死に際って、いろいろ起こるもんだな。」

「すごい!!やったね、悟!エライ!!」

「…ありがとな。」


自分に抱きついている幼馴染の頭をポンポンと撫でながら、五条は穏やかにそう言った。

その声に安心したのか、リンの体から急激に力が抜ける。

呪力を使い果たしたことで、一時的に貧血のような状態になっているのだ。


「リン…!平気か?」

「うん、平気。ごめん、体重かけて…」

「んなこといーよ。しばらく寄りかかってろ。」

「ダメ。あの人の気配が高専からなくなってるの。絶対良くないことが起きてる…!早く行って。」


不安そうな表情でそう言ったリンは五条から離れ、ペタンとその場に座り込む。

立ち上がり、動けない幼馴染の姿を見下ろしていた五条は、何の迷いもなく彼女の体を横抱きにして持ち上げた。

"邪魔になるから"と降ろすよう訴えるリンだったが、最早聞く耳を持たない彼には届かなかった。


「ちょっと聞いてる!?連れて行っても役に立たないから…!」

「役に立つとか立たないとか、そんなのはどーでもいいんだよ。」

「え…?」

「動けねぇリンを1人で残してくとか…絶対嫌だ。」

「悟…」

「俺とオマエはニコイチだって言っただろ。どんな時も一緒にいる…分かったか?」

「…分かった。ありがと。」

「おぅ。…俺はアイツの気配が掴みにくい。案内頼む。」

「了解。」


静かに会話を続けながら、2人は男の気配を追った。

訪れる最悪な事態を想定しながら…



to be continued...



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