-side 五条-

"赫"が直撃したアイツは、面白いぐらい派手にぶっ飛んだ。

少し下に目を向ければ、リンが目を見開いて驚いてる。

どうだ、リン?オマエにずっと前から言ってた技が出来るようになったぞ。


馴染みの顔から視線を外して、アイツが飛んでった方に目を向ける。

あのぐらいじゃ死なねぇと思うが、今はそんなことどうでも良かった。

ごめん、天内…俺は今、オマエのために怒ってない。誰も憎んじゃいない。

今はただただ、この世界が心地良い。


「天上天下唯我独尊。」


思ってた通り、アイツは生きてた。

長い鎖みたいな呪具を振り回して、その先を俺の方へぶん投げてくる。


代々伝わる相伝の術式のメリットは、あらかじめ先代の築いた術式の取説があること。

デメリットは術式の情報が漏れやすいこと。

アンタ御三家…禪院家の人間だろ。

"蒼"も"赫"も、無下限呪術のことはよく知ってるわけだ。

だがコレは、五条家の中でもごく一部の人間しか知らない。

あのリンにでさえ、まだ話せてないことだ。

順転と反転…それぞれの無限を衝突させることで生成される仮想の質量を押し出す。

それが…虚式・"茈"。


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五条の奥義が直撃し、男は左腕から脇腹にかけてを失った。

最早命が尽きるのは時間の問題…

だがそれでも平然とした表情を崩さず、2本の足で立っている姿はまさにフィジカルギフテッドの賜物だろう。

そんな彼の前に、リンを抱きかかえた五条がフワッと舞い降りた。


「まだ立てねぇだろ?ここ座ってろ。」

「うん、ありがと。」

「最期に言い残すことはあるか?」

「…ねぇよ。……2、3年もしたら俺の子供ガキが禪院家に売られる。好きにしろ。」

「…いいんですか?」

「あぁ。…それともオマエが育ててくれるか?」

「えっ…!」

「おい、リンに近づくな。」

「うるせぇな。もう何かする気力はねぇよ。最期なんだから大目に見ろ。」


そう言って五条を黙らせると、男はゆっくりとリンの前に行き、座っている彼女と目線を合わせた。

今までの行動と間近でみる傷の酷さに、リンは体を強張らせる。

その様子を知ってから知らずか、男は不敵な笑みを見せると彼女の耳元に口を持っていきそっと囁いた。


「…あの世で待ってる。」


それが男の最期の言葉になった。

1年後、まさかこの言葉が現実のものになるなんて…

この時は誰も予想だにしていなかった。



to be continued...



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