「リン、どうした?アイツに何か言われたのか?」

「え、何で…?」

「さっきより顔色が悪い。」

「…そんなことないよ。行こう。」

「歩けんのか?」

「うん、もう大丈夫。ありがと。」


謎の男から言われたことを追い払うように一度頭を振ったリンは、五条に手を貸してもらい立ち上がる。

そうして2人は、重い足取りで盤星教本部の中へと向かうのだった。





第64話 玉折 ー壱・弐・参ー





本部内の地下深くにその場所はあった。

部屋の中でまず目に入るのは、それはそれは立派な祭壇だった。

シンプルだが、金をかけたのが一目で分かるような代物だ。

その上に無造作に載せられた物体…

それは少し前まで笑って、喋って、元気に動いていた天内理子であった。


もう二度と自分に笑顔を向けることはない少女を前にして、リンは崩れ落ちる。

天内の冷たくなった手を握り締めて嗚咽する彼女の後ろで、五条もまた表情を失っていった。

2人の周りには、一様に貼り付けたような笑みを浮かべた教徒達が、場にそぐわない拍手を送っている。


「……リン、行くぞ。」

「…」


傍に置いてあった白い布を天内にかけると、五条は無機質な声でそう言った。

彼は片手に少女の遺体を抱え、もう片方で生気を失ったような幼馴染の手を引いて歩き出す。


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夏油が扉を開けた時、そこには数時間前とは別人のような状態の五条とリンがいた。

どちらの目も虚ろで、今目の前にいる夏油のことでさえ映っていないように見えた。


「…遅かったな、傑。いや、早い方か。都内にいくつ盤星教の施設があるって話だもんな。」

「……悟…だよな?(何があった…!?リンも…私の声に反応すらしないなんて…)」

「硝子には会えたんだな。」

「あぁ、治してもらった。私は問題ない。……いや、私に問題がなくても仕方ないな。」

「俺がしくった。オマエは悪くない。…リンのこと抱えてくれるか。もう立ってるだけでやっとだ。」

「もちろん。リン、おいで。」

「……傑君…」


夏油が手を伸ばせば、フラフラと彼の方へ歩を進めるリン。

精神的にかなり消耗していることは明らかであり、その痛々しさに夏油は胸を痛めた。

彼は一度ギュっとリンを抱き締めると、優しく抱え上げた。


「…戻ろう。」

「傑。…コイツら殺すか?今の俺なら、多分何も感じない。」

「いい。意味がない。見た所ここには一般教徒しかいない。呪術界こちらを知る主犯の人間はもう逃げた後だろう。

 懸賞金と違って、もうこの状況は言い逃れできない。元々問題のあった団体だ。じき解体される。」

「意味ね。それ本当に必要か?」

「大事なことだ。特に術師にはな。」


自分の腕の中で目を閉じるリンに目をやりながら、夏油は静かにそう言った。



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