2007年 8月

早いもので、星漿体・天内理子の事件から1年が経とうとしていた。

高専の中庭には、ラフな姿の五条・夏油・家入の姿があった。

後者2人の手にはそれぞれ消しゴムとペンが握られており、それを勢いよく五条へ投げつける。

だが彼に当たったのは消しゴムの方だけだった。


「うん、いけるね。」

「げ。何今の。」

「術式対象の自動選択か?」

「そ。今までマニュアルでやってたのをオートマにした。」


そうして五条は、自身のアップデートについて話し始める。

例の一件で反転術式を身につけてからというもの、彼の強さは異次元レベルになった。

その事実はとても喜ばしいものだが、一方で夏油の心に暗い影を落としていた。

と、そこへ彼らの担任である夜蛾が珍しく焦った様子で現れる。


「オマエ達、ここにいたか…」

「「「?」」」

「…ちょっと教室に来い。」


浮かない顔でそう言った夜蛾は、3人を教室へと連れて行った。


------
----
--


「何だよ、急に。」

「大事な話がある。」

「じゃあちょい待って。リンがもうすぐ着くと思うから。」

「…そのリンのことだ。」

「「?」」「どういうことですか?」


不安そうな表情を見せる3人に対し、夜蛾は"落ち着いて聞け"と前置きしてから話し始める。

除霊任務に出ていた森下リンが、そこから戻る途中で命を落としたということを…

最初何を言われているのか分からず、3人は一切の反応を示さなかった。


「いや、んなわけねぇだろ。さっきリンから"これから帰る"って連絡来てっから。」

「除霊任務は無事に終わったからな。その後に連絡を入れたんだろう。リンが死んだのは…そこから帰っている途中だ。」

「何で帰ってる途中で死ぬんだよ!気分悪いからその冗談やめろ。」

「冗談でこんなこと言うわけないだろ。」

「アイツに危険な任務は回ってこない!任務が終われば、いつも普通に帰ってくる!!それが何だよ…帰り道で死んだ?

 任務や現場が少しでも危なそうなら俺か傑が必ず一緒に行ってる!今日はそういう内容じゃなかった!死ぬわけねぇだろ!!」

「そうだ。任務も現場もいつも通り安全で難しくない内容だった。だがその帰り、突然1級呪霊が出現したらしい。」

「1級呪霊…?何でそんなものが「上の連中か。」

「…」

「リンのことを認めてない連中が、事故に見せかけて死ねばいいと思って送り込んだんだろ。」

「そうなんですか?先生…」

「……俺はそうだと思っている。」


夜蛾の言葉が終わらないうちに、五条はガタンと席を立ち教室を出て行こうとする。

腕を掴みそれを引き留めながら、夏油は再度担任へ話しかけた。


「離せよ!!」

「悟、落ち着け!…仮にそうだとしても、呪力に鋭いリンなら事前に呪霊の気配を認識できたはず…逃げれば済みます。」

「呪霊が現れた時…周りには一般人がいたそうだ。」

「! その人達を守ろうとして…?」

「…そう聞いている。」


五条を止めるため立ち上がっていた夏油は、それを聞いた瞬間彼の手を離し、イスに崩れ落ちた。

引き留める力がなくなった五条は荒々しく教室を出て行き、家入は先程から机に突っ伏して一言も発していない。


「リンの遺体は…損傷が激しく回収できなかった。墓には現場に唯一残されていた制服のボタンを入れる予定だ。」


そう静かに告げて、夜蛾もまた教室を出て行った。



- 199 -

*前次#


ページ:

第0章 目次へ

第1章 目次へ

第2章 目次へ

第3章 目次へ

第4章 目次へ

第5章 目次へ

第6章 目次へ

章選択画面へ

home