5人が向かった先は、"ドンドンドン…"で有名なドン・キホーテだった。

ここならスズ達が必要な物資は間違いなく揃っているだろう。

飾り付け担当、お菓子担当、食材担当…と役割を分担する中、スズが任されたのは衣装担当だった。


「私が独断で選んじゃっていいの?」

「いいわよ!それぞれに似合うやつ頼むわ!」

「分かった!じゃあまずは悠仁からね!」

「おう!」


そうして虎杖を連れたスズは、早速ハロウィンの仮装道具が並ぶエリアへと足を向けた。

所狭しと並べられた衣装に、スズのテンションは爆上がりだ。

だが虎杖に着せたい衣装は、彼女の中で既に決まっているようで…


「悠仁の衣装はもう決まってるんだ!」

「え、そうなの?」

「うん!はい、これつけて!」

「これって…犬の耳?」

「犬じゃなくて狼ね!前にも言ったけど、悠仁はワンコっぽいから耳が似合うと思うんだ〜」

「そうかな〜……どう?」


半信半疑で耳をつける虎杖だったが、彼の人懐っこい笑顔とマッチして実によく似合っている。

別売りの尻尾と首輪もつければ、想像以上にカッコ良くて可愛い狼男が完成した。


「うわっ…!悠仁いい!めちゃくちゃカッコいいよ!」

「! そ、そう…?ありがと!」

「やっぱり私の目に狂いはなかったわ!」

「…これって狼だったよな?」

「うん!それがどうかした?」

「じゃあ……スズのこと食っちゃっていい?」


グッと距離を詰めてスズに近づくと、虎杖は無邪気な笑顔でそう言った。

普段とは違うその言動に、スズは途端にドキドキし始める。

なかなか言葉が出てこない同期の姿を楽しそうに見ていた虎杖は、人の気配を感じてパっとスズから離れた。


「選んでくれてありがとな!じゃ、食材の買い出し行ってくんね〜」

「あ、う、うん!よろしく…!」


優しく穏やかな笑顔を向ける彼を見送った後、スズは静かに呼吸を整える。

次の伏黒をLINEで呼び出している間も、彼女の顔はまだほんのりと赤かった。


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「(いた。…どうせなら2人で買い出し行きたかったな。)スズ!」

「あ、恵!こっちこっち〜」

「お待たせ。…って、その手に持ってんのが俺の衣装か?」

「そっ!いろいろ悩んだんだけど、恵にはこれかな〜って!」


そう言ってスズが伏黒に手渡したのは、アメリカンポリスの衣装だった。

黒一色の上下に、帽子と胸元には銀のエンブレムがついている。

拳銃ホルダーや手錠、おまけにサングラスのオプションもついていて結構本格的だ。


「!」

「……何か言えよ。変なのか?」

「変じゃないよ!!むしろすごい似合ってる!カッコいい!」

「そう、か…!」


更衣室から出てきた伏黒は、今すぐにでもアメリカで働けそうな程に自然な出で立ちだった。

虎杖と比べると細身なその体に、アメリカンポリスの制服はピッタリだ。

ベルトで強調される細腰も、何とも言えず色っぽい。

だがスズにド直球で褒められると、サングラスをしていても分かるぐらい赤くなる伏黒なのだった。


「…あんま見んなって。」

「ふふっ。恵照れてる〜!でもこんなイケメンポリスだったら、皆捕まりたくなっちゃうね。」

「! …オマエは?」

「え?」

「スズは捕まってくんねぇの?」


さっきまでの赤い顔が嘘のように大人っぽい顔でそう言うと、伏黒はスズの手を優しく掴んだ。

衣装の影響もあるのか、スズは魅入られたように固まってしまう。

その様子に笑みを見せると、伏黒はもう一歩彼女の方へ近づこうとしたのだが…


「次、僕の番だよね〜」

「…五条先生。」

「おっ!似合ってるじゃん。でもほら!早く着替えて、恵は野薔薇の荷物持ちに行ってあげな。」

「…分かりましたよ。」


面白くなさそうな顔で更衣室に入っていった伏黒を見届けると、五条はさっさとスズの腕を取って歩き出す。

呆気にとられているスズを他所に、五条の表情は何とも楽しそうだった。


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「俺の衣装は何選んでくれるの?」

「んー先生何でも似合いそうだから、逆に難しいんですよね…」

「え〜照れる〜」


伏黒からスズを奪い、意気揚々とコスプレゾーンを歩く五条。

周りに生徒達がいないことを確認すると、話し方は途端にラフになった。

五条に手を繋がれながら、スズはたくさん並んでいる衣装を吟味していく。


「迷うな〜……あっ!これ良さそう!」

「え〜執事なんて、俺の柄じゃなくない?」

「それがいいんじゃないですか!先生背高いし、これ絶対似合いますよ!」


"着て下さい!"

想い人から満面の笑みでそう言われては、あの五条悟と言えど敵わないようで…

更衣室から出てきた彼は、どこぞの漫画で見るような完璧な執事だった。


「どう?カッコいい?」

「はい…!すっごく!!」

「ふふっ。ありがと。」


穏やかにそう言った五条は、次の瞬間スッとその場に膝をつく。

そしてスズの手を取ると、キレイな顔で見上げながら声をかけた。


「俺に何して欲しいですか?お嬢様。」

「え、あ、えっと…!」

「スズが言うことなら、俺何でもしてあげる。」

「何でも…?」

「うん、何でも。スズのワガママ聞かせて?」

「じゃあ……もうあんまり危険な任務行かないで下さい。」

「!」

「最近怖いんです。悟先生がどっか行っちゃいそうな気がして…」


不安そうな顔で自分を見つめるスズに、五条は思わず立ち上がり、その体をギュっと抱きしめる。

いつ人が来るか分からない状況ということもあり、スズはいつも以上に激しいドキドキ状態だ。


「どこも行かねぇよ。俺がオマエのこと置いてどっか行くわけねぇだろ。」

「悟先生…」

「つーか、あんまそういうこと言うな…キスしたくなるから。」

「えっ…!」

「場所とか時間とか関係なくしちゃうかもしんないから、発言には気をつけてくださいね。お嬢様。」


怪しく微笑んだ五条は、そう言ってスズの頭を優しく撫でた。


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最後に自分と釘崎用にアリスと赤ずきんの衣装を買い、スズ達はドン・キホーテを後にした。

それから5人でワイワイと食事を取り、夜も遅くになって各自部屋へと戻った。

それぞれの部屋には、今日買ったハロウィン衣装がハンガーにかけられている。

だがハロウィン当日、スズ達は思い描いていたようなパーティーをすることはできなかった。


2018年10月31日 渋谷

その地に悪意に満ちた、巨大な"帳"が降りた。



to be continued...



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