20:31 五条悟 現着

傍らにスズを伴い、五条は"帳"の中へと入って行く。

入ってすぐの場所には、一般人の姿はそこまで多くなかった。

だがどの顔にも焦りと怒りの表情があり、徐々に殺気立ってきているのが分かる。


「考えりゃ分かんだろ!!低学歴がよ!!」

「はぁ!?じゃあ学歴でそこ通れるようにしろや!!」

「先生、待って…!」

「ん?」

「うわっ、ごめんなさい…!」

「いでっ!邪魔なんだよ、ブス!」

「すみません…あ、先生。」


呼ばれて振り返った先で、自分の好きな女性がブス呼ばわりされているのを見た五条。

目隠しをしていても分かる程不機嫌になった彼は静かにスズの前まで戻ると、今彼女に絡んできた男に軽く呪力をぶつける。

勢い余って転ぶ男に"あ、ゴメン"と言葉を投げかけてから、五条はスズの手を握って歩き出した。


「せ、先生!呪力ぶつけちゃダメですよ!」

「アイツが悪い。…誰の女に絡んでブスとか言ってんだよ。」

「!」

「スズ。」

「は、はい!」

「ここにいる間、俺から1ミリも離れんな。…一般人にも触れさせたくない。」

「ふふっ。すごい独占欲。」

「そんなのもう知ってんだろ。」


握った手に力を込めながらそう言ってスズの方を見る五条は、口元にニヤリと笑みを浮かべる。

"ここにいる人達は、このイケメンを知らずに生きて行くのか〜"

相変わらずいつでもどこでもカッコいい師匠の姿に、スズは人知れずそんなことを思うのだった。


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20:38 渋谷ヒカリエShinQs B1F

そこには外とは比べ物にならないくらい多くの一般人がいた。

"ひしめき合う"という言葉を体現したような光景に、スズは思わず息を呑んだ。


「こんなに人が…」

「ん〜こりゃひどい。」

「"帳"の影響でこんなことに…?」

「うん。この下を中心に、外と同じ一般非術師を閉じ込める"帳"が降りてるみたいだから。」

「信じられない…これじゃいつ事故が起こってもおかしくないですよ。」

「さっさとケリつけないとね。スズ、行くよ。」

「はい…!」

「ほい、失礼。」「すみません…!」

「うおっ!?」


軽い足取りで一般人の頭の上を歩いて行く五条に手を引かれ、スズも小声で謝りながら歩を進めた。

この建物の最下層には副都心線のホームと線路がある。

吹き抜けになっている場所でそこを見下ろしていた五条は、ポツリと言葉を漏らした。


「フム…」

「先生?」

「なんとなく狙いは分かったかな。」

「行く…んですよね?」

「もちろん。乗ってやるよ。スズおいで。抱えてあげる。」

「えっ、いいですよ!自分で降りれますから…!」

「下にいる奴が誰か分かっただろ?戦い始めたらスズに触れなくなるから、その前に触れたい。」

「うぅっ…分かりました。」


五条からの直球な言葉に全力で恥ずかしがりながら、スズは彼の首に手を回す。

それを確認すると、五条はひょいと彼女を持ち上げて横抱きにした。

下へ下へと降りていく中で、五条はスズと最終打ち合わせをする。


「無限はつけてあるけど、無茶なことはしないように。」

「はい。」

「俺がいる限り、オマエの方に攻撃がいくことはないと思っていい。だから目の前の一般非術師に集中しろ。」

「…」

「…先生の身が危ない時は、私のことは放っておいていいです。」

「!」

「当たった?」

「…当たった。足手まといになりたくないんです。」

「俺が"一緒に来て"って言ったんだよ?足手まといになるわけないでしょ。それに…好きな女が傍にいると、男は強くなるもんなの。」

「先生…」

「ふっ。また1つ男について知識が増えたね。」

「…ありがとうございます。」

「どういたしまして。」


そんな会話をしながら一気に線路まで降下すると、五条はスズを優しく地面に立たせる。

2人の目の前には見慣れた顔の呪霊と、見慣れない顔の人間がいた。


「(あの人、誰だろ…)」

「クックックッ…準備バッチリってわけだ。これで負けたら言い訳できないよ?」

「(あの女…来たか!)貴様こそ、初めての言い訳は考えてきたか?」


20:40 東京メトロ渋谷駅 B5F副都心線ホーム

2体の呪霊と1人の人間を相手に、五条の戦いが始まる。



to be continued...



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