ホームドアから降り立った五条は、冷たい目を向けながら花御の方へと歩き出す。


「まずはオマエから祓うころす。ほら来いよ。どうした?」

「(先生、いつもと目が違うんだけど…!)」

「逃げんなっつったのはオマエらの方だろ。」


大股で歩を進めた五条は、一瞬にして呪霊2体との間合いを詰めた。





第69話 渋谷事変 ー参ー





そこからの五条は凄まじかった。

いつもの無下限の術式を解き、基礎的な呪力操作と体術だけで特級クラスの呪霊を手玉に取る様子はまさに"最強"。

だが当初の発言とは異なり、彼の狙いは漏瑚に定められているようで…


「(あれ…?先生、狙いが変わってる?)」

『(あくまでも漏瑚狙い。先刻の宣言は心理誘導か…そしてこの男、無下限の術式を解いている!!

 術式の微調整を捨て、あの小娘の影響で人間が捌け始めたこのスペースで、呪力操作のみのコンパクトな攻めに回るつもりか。

 だがこれならわざわざ人混みに紛れる必要もない。こちらは術式を使うまで!!)』

「! 展延を解くな!!花御!!」

「ココ…弱いんだって?」


花御が展延を解いた瞬間、クルッと向きを変えた五条はそのままその体に飛びつく。

そして事前に弱点だと聞いていた2本の枝を握り締めると、ものすごい勢いで引き抜いたのだった。

その無駄のない動きと圧倒的な強さに、敵はもちろん、スズもまた改めて師匠のすごさを思い知らされる。


「やっぱりな…展延と生得術式は同時には使えない。」

「(久しぶりに悟先生の本気を見た気がする。強すぎ…!)」

「(儂が先刻さっきまであの程度で済んでいたのは、展延で体を守っていたからだ!!

 基礎的な呪力操作と体術でこのレベル!!五条悟…逆に貴様は何を持ち得ないのだ!!)」


と、その時。

両手に枝を持ち、花御を見下ろしていた五条に向かって矢のようなものが飛んでくる。

いつも通り無下限の術式を発動していた彼に攻撃が当たることはなかったが、矢の軌道上にいた一般人が何人か巻き込まれてしまう。

それに気づいたスズは急いでケガ人の傍へと駆け寄り、すぐに治療を開始した。


「チッ。」

「(アイツ呪霊じゃない。受肉した九相図って所かな…ウザいけど、こっちの2匹程やる気ないみたいだし後回しだな。)」

「あの人、何なんでしょう…何か変な感じです。」

「そうだね、呪霊じゃないことは確かだけど……ん?」

「どうしました、先生?」

「(アイツ…狙いをスズに変えようとしてる?)…スズ〜」

「うわっ…!せ、先生!?」

「(そう易々と狙わせるかよ。コイツに手出したら殺すぞ。)ちょっと充電。」


本当に人を殺せそうな程に鋭い視線を相手に投げつつ、五条はそう言ってスズを守るように彼女を背後から抱きしめた。

この場にそぐわない急なスキンシップに動揺するスズを他所に、五条は相手から視線を外さない。

それは、相手がスズに対する興味を失うのを確認するまで続くのだった。


五条がスズを解放した途端、少し距離を取っていた漏瑚と花御が再び攻撃を仕掛けてくる。

だが花御の方は、目から生えている枝を引き抜かれたことでかなりのダメージを受けていた。


「いいのか?」

「!」

「オマエが展延で僕の術式を中和する程、僕はより強く術式を保とうとする。こっちの独活はもうそれに耐える元気ないんじゃない?」

「なっ!!」


五条はそう言うと、術式の威力を強くした状態で花御の方へ迫っていく。

彼の言う通り、花御はその力に耐えきれずゴリゴリと音を立て、今にも崩壊しそうだった。

仲間のピンチに焦った漏瑚が一般人の方へ攻撃をする素振りを見せるが…


「五条悟!!こっちを見ろ!!」

「(そんなんで見るわけねぇだろ。そっちは俺の女が守ってんだよ。)」

「皆さん、下がって!!大丈夫ですから!」


後方で聞こえる想い人の声に、五条は一瞬笑顔を見せる。

そして次の瞬間、ものすごい音と共に花御の姿は抹殺された。


「次。」


冷たい目で発せられたその言葉に、漏瑚は冷や汗を流しながらホームを駆け出すのだった。

その姿に1つため息をつくと、五条は後を追うべく愛弟子の名を呼んだ。


「スズ、移動するぞ。」

「はい!」



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