五条から距離を取った漏瑚は、夏油から渡されていた特殊な呪霊を収めた壺を取り出す。
彼の話によれば、この呪霊は自分の領域内に取り込んだ人物を、見た目はもちろん呪力や術式までも完全にコピーできるとのこと。
これを木下スズに対して使うことで、五条をいくらか足止めできると聞いていた。
「(理屈は分からんが、少しでも奴を止められるなら…!)」
そうして漏瑚は壺の蓋を開けた。
ごった返す人の中を走り抜ける2人。
だが途中途中でケガ人を治しながら走っていたスズは、徐々に五条との距離が空いていく。
と、そんな中でまた1人一般人を治し終えたスズが立ち上がり走り出そうとすると、突如目の前に四角いゲートのようなものが現れる。
突然のことで止まることもできず、スズはそのままゲートの中へと吸い込まれていった…
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「五条先生…!」
「ん?どうした?」
「すみません…!ちょっと…疲れちゃって…」
「そっか。じゃあ…そこの裏の方で少し休もうか。」
自分に追いついて来たスズからの申し出に、五条は自販機が並ぶエリアの隅の方に場所を移動した。
並んで床に腰を下ろすと、スズは静かに師匠の肩に頭を預けた。
「珍しいね。そんなに疲れた?」
「はい…何か大変なことになっちゃいましたね。」
「そうだね〜…大丈夫?」
「大丈夫で「だろうね。てめぇらで仕掛けてんだから。」
「え?」
今までの優しく甘い声から一転して、冷水のような声でそう言う五条。
戸惑うスズを見る目も、無感情の冷めたものであった。
「ご、五条先生…?」
「スズを使って仕掛けてくるなんて、いい度胸してるよね。でもそれ…自分の寿命縮めてるだけだよ。」
「先生、どうしたんですか?何言って…」
「その気持ち悪ぃ演技、もういいから。あのね、スズってこっちが聞くまで絶対"疲れた"って言わないの。
いつも一生懸命で頑張り過ぎちゃうから、俺が止めてあげないといけないんだ。
それにめちゃくちゃ照れ屋で、自分から俺にくっついてくることなんてほとんどないしね。
コピーするならするで、アイツのこともっと調べてからやれ。そんな中途半端なコピーに俺が騙されるわけねぇだろ。」
「ぐふっ…」
「あと最後に…スズが俺のこと"五条先生"って呼ぶのは、ガキの時だけだから。」
そう告げた後、五条は一瞬で目の前の呪霊を祓った。
それと同時に、何もなかった空間から本物のスズが意識を失った状態で現れる。
五条が優しく抱き起こし声をかけると、目を開けた想い人は珍しくガバッと抱きついてきた。
今度は本物の感触であることに安心し、五条は嬉しそうに強く抱きしめ返すのだった。
「悟先生…!」
「おっと…!どうした?珍しいじゃん。」
「…意識失う前に、自分とそっくりの人がいたから…もしあれに先生が騙されて、何かあったら…って。良かった…!」
「俺がそんなのに騙されるわけないでしょ。どんだけスズに惚れてると思ってんの。」
「!」
「ふっ。もうひと踏ん張り、行ける?」
「はい、もちろんです!」
ほんのり赤い顔のスズは、元気な笑顔と声でそう言った。
そんないつも通りの、自分の大好きな想い人と共に、五条は再び戦場へと向かう。
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