周りが騒がしくなればなるほど、五条が纏う空気は静かなものになっていく。
そんな師匠の姿を不安そうな表情で見つめていたスズ。
何か言葉を発した方がいいのかと息を吸った瞬間、不意に五条がこちらを向いた。
反射的に自分を見上げてくるスズに、五条は場にそぐわない穏やかな声で話しかける。
「スズってさ、俺の領域に何回ぐらい入ったことあるっけ?」
「回数、ですか…んー少なくとも10回以上は。」
「そうだよね…だから領域側も、スズを敵とは認識しないはず。」
「! 先生、もしかして…」
「…でも確実じゃない。もしかしたらスズに…何か影響が出るかもしれない。今からでも外に「嫌です!!」
「俺がこれからやろうとしてること、もう分かってるだろ?それでもいてくれるの?」
「もちろんです。」
「怖くない?」
「…怖いです。どうなるか分からないですし…でも私は……先生が、あの言葉を言ってくれれば…!」
「(! マジか…敵わねぇな。)…大丈夫、俺がついてる。」
頭にポンと手を置いて力強くそう言えば、スズは満面の笑みで"はい!"と返事をした。
カオスな状況は未だ続いたままだが、彼女の表情からは師匠への絶対的な信頼が伝わってくる。
自分の言葉1つで命を懸けようとしてくれる想い人に、五条は堪らなくなる。
そして頭に乗せていた手を後頭部へと回し、そのまま抱き寄せた。
「せ、先生…?」
「…今の状況が落ち着いたらさ、もっかい告白させて。」
「えっ!?」
思わず大きな声が出たスズに少し笑みを見せると、五条は領域を発動した。
まさかこの状況で領域展開をするとは思っていなかった真人達は、驚く間もなく"無量空処"の餌食になる。
五条が一か八かで設定した0.2秒の領域展開。
その場にいる全員の脳内に約半年分の情報が流し込まれ、皆が皆立ったまま気を失った。
現代最強の呪術師は、副都心線B5Fに放たれた改造人間およそ1000体を、領域解除後299秒で鏖殺した。
珍しく乱れている息を整えながら、五条はすぐに想い人の姿を探す。
「スズ…?スズ!!」
「悟先生…!」
そう言って柱の陰から顔を出したスズを見た瞬間、息の乱れも忘れ、五条は彼女の元に走る。
両肩を掴み顔を覗き込みながら無事を確認すれば、スズはさっきまでと変わらない様子で言葉を返すのだった。
「大丈夫か?記憶とか、体とか、おかしなとこは?」
「全部何ともないです。」
「はぁ…良かった…」
「やっぱり先生の"大丈夫"は最強です!」
「…最強なのは、俺の言葉を全面的に信じてくれるスズの方だよ。」
疲れた体を預けるようにスズに抱きついた五条は、そう言って笑みを見せる。
師匠の大きな体を労わるようにポンポンと背中を叩いていたスズは、ふと彼の背後に突如現れた物体に目を止めた。
それは変な模様の入った、サイコロのようなものだった。
「あれ、何だろ?」
「ん?どれ…っ!」
「獄門彊 開門。」
直後に聞こえてきた声は、スズと五条の記憶にある懐かしい人物のものだった。
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