五条を封印した獄門彊を手にした夏油は、茫然自失状態のスズを冷めた目で見つめる。

彼女自身とその能力に惹かれ、当初は一緒に連れて行こうと考えていた夏油だったが、今の抜け殻のような状態には興味がないようで…

ワーワー騒いでいる真人を連れて、さっさとその場を後にするのだった。

だが、やっと無量空処から目覚めた漏瑚や脹相と合流し、今後について話し合おうとした矢先…手にしていた獄門彊がカタカタと動きだす。


「全員起きたね。さて今後の…ん?」

「? どうした?」


漏瑚がそう問いかけた瞬間、獄門彊が突如重みを増し、もの凄い音を立てて床に落ちたのだ。

封印しても尚、自分の手を煩わせる五条という男に、夏油は憎々しげに舌打ちをする。


「物理的時間は流れてないっぽいね。」


閉じ込められたとは思えない程、飄々とした態度でそう呟く五条。

周りの無数の骸骨がこちらへ迫って来るという異常な状況にも関わらず、彼は楽しそうに言葉を紡ぐ。


「まずったよなぁ…色々とヤバイよなぁ……ま、なんとかなるか。期待してるよ、皆。」


それから五条は不意に唇を撫でるように触る。

思い出されるのは、さっきまで目の前にいた愛しい人。

そこにはまだ彼女の温もりが残っていた。


「少しだけ待っててね…スズ。」


彼の顔は、誰も見たことがないような優しい表情をしていた。





第71話 渋谷事変 ー伍ー





「…行った、よね?」


静かなホームで、その呟きはやけに大きく響いた。

声の発生元はもちろん、五条が愛情たっぷりに育てた陰陽師兼呪術師だった。

さっきまでの憔悴しきった表情から一転して、その目は次なる目標に向けて強い光を宿していた。


「ちゃんと弱ってる顔できてたかな…まぁ何はともあれ、あの人達と離れられて良かった〜」


五条が閉じ込められた瞬間こそ、悲しみで崩れ落ちたスズだったが、そこは彼の愛弟子。

すぐに気持ちを切り替え、次なる行動のために動き出す。

まずは何より夏油の偽物から離れること…そして他のメンバーと合流、からの状況把握。


「悟先生は死んでない。あの獄門彊とかいう箱を取り戻せれば…どうにかなる!」


"早く悠仁達と合流しなきゃ…!"

最後にそう呟くと、スズは彼らがいる地上へと猛スピードでフロアを駆け上がって行った。

途中で傷ついた一般人を治しつつ、しばらく振りに地上の空気を吸ったスズ。

ここにまで改造人間がウロついていることに驚きながら、次にスズは水平方向に外へ外へと走って行く。


「(あれ?こんなとこに"帳"なんてあったっけ…?)」


そんな中、約1時間前に五条と来た時にはなかった"帳"に疑問を抱く。

その後も外へ出るまでに2つの"帳"を通り抜けたスズは、そこで聞き慣れた声を耳にした。


「ナ!ナ!ミーン!!!」

「この声…悠仁?どこから…!」

「ナナミンいるー!??五条先生があっ!!封印されたんだけどー!!!」

「! 何でそのこと…」

『スズ、悠仁のいる場所分かったわよ。』

「ありがと、ワダツミ!朱雀、そこまで連れてって!」


自身の護衛と、一般人救出のため常時発動していた式神からの報告を受け、スズはすぐさま現場へと向かった。



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