"五条悟を助ける"

その共通の目的を胸に、残された者達はそれぞれ動き始める。

七海からの指示に従い、スズはまず学長である夜蛾へ連絡を入れた。

彼によれば、今こちらへ家入が向かっているとのこと。

彼女が到着次第そこを臨時の救護場所とし、自分も護衛としてそこに常駐する。

だから戦えるスズは移動しながら、一般人の救護と改造人間の相手をするように…それが、夜蛾からの指示であった。

そうして電話を切ったスズが地上へ降りると、"帳"の前で何やらやり取りをしている虎杖達がいた。





第72話 渋谷事変 ー陸ー





もの凄い威力で"帳"に打撃を加える虎杖に目をやりながら、スズは伏黒へと声をかける。

自分より一足先に地上に降りた彼らは、今目の前にある"帳"を解くために動いているはずであった。


「恵!」

「スズ。学長と連絡ついたか?」

「うん。硝子さんが来てくれるみたいで、そこが臨時の救護場所になるって。で、私は移動しながら人命救助と改造人間の相手。そっちはどう?」

「ダメだ。相当固い。」

「あ、スズがいる!」

「悠仁、手大丈夫?」

「おぅ、全然!」


周りにいる改造人間を倒しながら、4人は再び話し合いの場を持つ。

彼らが解こうとしている"術師を入れない帳"はバリアのようなものであり、この場合原則として"帳"を降ろしている人間は中にいると考えられる。

そのため"帳"を破壊するには、まず何を置いても中に入ることが大切なのである。

猪野や伏黒がそんな会話をする中、別場所から合流した虎杖は、"帳"に関して自分が見てきたことを伝えた。


「でも原宿ではさ…」

「……成程!!"帳"で自身を囲わずに外に出ることで発見・撃退されるリスクを上げて、"帳"の強度も上げる…コロンブスの卵というか…

 いやでも結界術の基本ガン無視してんじゃねーか!!とんでもねぇ奴だな!!これならさっきの虎杖の一撃で破れなかったのも納得がいく。」

「…その理屈なら、"帳"の基はかなり目立つ所にあるんじゃないですか?」

「より見つかるリスクを抱えて、更に強度を上げてるってわけか。」

「悟先生に対する行動を見ても、敵はかなり計画的です。そのぐらいのことは考えそうですね。」

「目立つ…場所…」


そう呟きながら、虎杖はゆっくりと顔を上に向ける。

彼の視線の先には、抜群の高さを誇る渋谷Cタワーがそびえ立っていた。


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「じゃあ悠仁、十分気をつけてね…!」

「うん!スズもな。」

「ありがと!猪野先輩、悠仁のことお願いします。」

「あいよ!万が一俺らがケガした時は頼むぜ。」

「もちろんです!」


あれから3人は作戦を立て、伏黒の"鵺"に虎杖と猪野が乗り、空から攻撃を仕掛けることになった。

呼び出された"鵺"に乗り準備を整える2人を横目に見ながら、伏黒は一般人救助のため単独で行動するスズの方へ向き直る。

本音を言えば、このまま自分の傍に置いておきたい。

いつ何が起こるか分からないこの渋谷で、好きな相手を1人で送り出すのは、伏黒にとってとてもツラいことだった。


「恵…?どうしたの、大丈夫?」

「……スズ、無茶だけはするな。何かあったら、式神使って必ず俺か虎杖に連絡しろ。」

「分かった。約束する。」

「絶対だからな。もう二度と…俺の前からいなくならないでくれ。」


スズの目を真っ直ぐに見つめ、強くそう訴える伏黒。

初めて宿儺と戦ったあの雨の日…目の前でスズの死を味わった。

脈も呼吸もなく、心臓の音も聞こえない。

彼女のことを好きだと気づいた時から、その日の光景が負の記憶として伏黒の脳内にこびりついた。

"あんな想いはもう二度としたくない…"

嫌な記憶がフラッシュバックし俯いていた彼の顔を、温かい手が包み込む。

驚いた伏黒がパっと顔を上げれば、手と同じぐらい温かな笑顔を向ける想い人がいた。


「もう絶対いなくならない。必ず恵達のところに帰ってくるから…だから大丈夫!」

「あぁ。…スズ。」

「ん?」

「少しだけ、抱きしめていいか?」

「え、あ、う、うん…!」


穏やかな笑顔が一転してアワアワし始めるスズに笑みを漏らしながら、伏黒は自分よりも小さな体を優しく腕の中に収めた。

だが久しぶりにスズに触れ、その体温を感じた伏黒は、すぐに自分が取った行動を後悔することになる。


「(あーくそ…触っちゃダメだった。このまま離したくねぇ…)」

「め、恵…?」

「悪い、スズ。俺のこと無理やり送り出してくれ。」

「へ?」

「…オマエから離れたくなくなった。」


いつかの五条のように甘えてギューっと抱きついてくる伏黒に、スズはクスッと笑みを漏らす。

さっきまでのドキドキも忘れ、スズは諭すように穏やかに話し始めた。


「私ね…これから先、恵の頭の回転の速さと冷静な判断がすごく重要になると思うんだ。

 今までも、何が何だか分からなくてテンパってる時、恵の声だけはよく聞こえてた。

 だから大変だと思うんだけど…チーム1年の頭脳として、恵には私達を引っ張ってって欲しい。やってもらえる、かな?」

「…うん、分かった。もしそれに疲れた時は癒してくれんのか?」

「私に出来る範囲で…頑張る!」

「ふっ。頑張んなくていいよ。ただ傍にいてくれれば…それでいい。」

「りょ、了解…!」

「頼むな。…っし。後ろの方で虎杖がうるせぇし、そろそろ行くわ。」


どこかスッキリした表情でそう言った伏黒は、スズを解放し笑顔を見せた。

"スズと何喋ってたんだよ!"と騒ぐ虎杖と、それを軽くあしらう伏黒。

そんな同期2人の姿を見送って、スズもまた自分の仕事に取り掛かるのだった。



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