虎杖達と別れたスズは、式神に改造人間の相手をさせつつ、辺りの様子を探った。

そして特にケガ人が多い場所に陣取ると正の領域展開をし、その中で一般人の治療を開始するのだった。

治療を始めてすぐ、バシュッという音と共に"術師を入れない帳"が上がる。

それはイコール虎杖達の勝利を物語っており、スズの顔にも笑みが浮かんだ。

まさか猪野が大変なことになっているなど、夢にも思わずに…

と、そんな彼女の背後に1つの影が迫る。


「女。」

「……え、私ですか?」

「あぁ。オマエ術師か?」

「はい…まぁ陰陽師も兼ねてますけど…」

「この空間はオマエが?」

「そうです…って、服についてるそれ血ですか!?大丈夫?どこかケガしてるんじゃ…!座って下さい!」


いきなり現れ、術師か?と問いかけてきた謎の男。

そのどう考えても怪しい男に対し、スズは他の一般人と変わらない対応で彼を受け入れた。

だが調べてみても、彼の体には傷1つ見つからない。

唯一あるとすれば、右手の拳についた小さな傷ぐらいだ。

服の血と傷が合わないことに疑問を抱きながらも、スズはそのまま手の治療を始める。


「へぇ〜…オマエ、反転術式使えんのか。」

「! は、はい。

(え、反転術式のこと知ってるってことは、間違いなく呪術界隈の人だよね?でもこの人呪力がない、けどめちゃくちゃ強い感じ…何か真希先輩みたい。

 …真希先輩?あ、もしかしてこの人…禪院家の人!?いや、でもあの人は死んだって悟先生が……もう直接聞いた方が早いよね。)

 …あの!」

「ん?」

「…お名前は、何ていうんですか?」

「! 何だ急に。ナンパか?」

「何言ってるんですか!ち、違いますよ…!」

「いいぜ?相手してやっても。ホテルでも行くか?」

「ホ、ホテル!?行きませんよ、そんなとこ!!そうじゃなくて…!」

「何だオマエ初めてか。じゃあ俺がもらってやるよ。」

「えっ!?ちょ、もう!私の話聞いてください…!」

「ふっ。オマエ顔真っ赤だぞ。どうした?」

「どうしたじゃないです!全部アナタが「禪院甚爾。」

「へ?」

「俺の名前…知りたかったんだろ?」

「あ、はい…禪院甚爾、さん……え、禪院甚爾!?あの!?」

「俺のこと知ってんのか。」

「お、お名前だけは…でも、亡くなったって…」

「な。」

「いや、"な"じゃないですよ!どういうこと…?」


五条から昔話を聞いた際、自身の覚醒には"禪院甚爾"という人物が関わっていると教えられていたスズ。

だがその後、彼自身の手で"禪院甚爾"に止めをさしたということも合わせて聞いていたのだ。

では今目の前にいる、"禪院甚爾"を名乗る男は何者なのか?

五条が殺し損ねたとは思えない。でも生き返るなんて非現実的。

足を広げ、地面にドカッと座りながら楽しそうな笑みを見せている男を前に、スズはひたすら考えを巡らせていた。


「(この人が本当に禪院甚爾だとしたら相当ヤバイ…あの悟先生を殺しかけた人だよ?このままここにいたら殺される…)

 ……私、所用を思い出したのでこれで!あの、大丈夫だとは思いますが一応……襲われないように気をつけてくださいね。ケガしないように…!」

「待てって。」

「ひっ…!」

「所用って何だよ。」

「しょ、所用は所用です!急ぎますので!」


本能的に距離を取った方がいいと判断したスズは、その場を立ち去ろうと素早く立ち上がった。

だが座ったままとは思えない程の速さで腕を掴まれ、動きを封じられてしまう。

それでも何とか手を振りほどき、スズは小走りでその場を後にした。


------
----
--


「("気をつけて"…か。んなこと久々に言われたな。俺が誰に気をつけんだよ。)」


走り去ったスズの後ろ姿を見つめながら、禪院甚爾は呆れたような笑みを見せる。

術師だと言われたら殺そうと思っていた。

無駄に居心地の良いこの空間を作り出した人物でなければ殺そうと思っていた。

だが実際は陰陽師で、この空間を生み出した人物だった。

おまけに話してみれば、自分の言動に全力で反応し、言葉を返してくる。

面白いおもちゃを見つけた子供のように、彼は楽しそうにスズの背中を追った。



to be continued...



- 220 -

*前次#


ページ:

第0章 目次へ

第1章 目次へ

第2章 目次へ

第3章 目次へ

第4章 目次へ

第5章 目次へ

第6章 目次へ

章選択画面へ

home