そんな折、不意に甚爾の纏う空気がピリピリしたものになった。

変化に気づいたスズが声をかけても、その空気に変化はない。

そして急に舌打ちをしたかと思えば、次の瞬間…!

甚爾はスズを抱きかかえ、背後に迫る改造人間に重たい蹴りを喰らわせた。

突然の出来事に驚くスズだったが、すぐに冷静さを取り戻す。

甚爾に抱えられたまま辺りを見回せば、どこから集まったのか数体の改造人間がこちらに向かって来ていた。


「嘘、いつの間に…全然気づかなかった。」

「そんなに俺に夢中だったのか。」

「違います…!それより降ろしてください。私も戦います…!」

「いい。オマエはこのままでいろ。すぐ終わらせる。」

「いや、無理ですよ!私を抱えたままなんて…!邪魔になりますから!」

「なんねーよ、こんな気持ちいい女。」

「ちょ、言い方…!」

「オマエらよ、見て分かんねーのか?今コイツと気持ちいいことしてんだから邪魔すんな。」

「だから言い方を「黙ってろ。舌噛むぞ。」


そう言うと、甚爾はスズを横抱きにしたまま動き出す。

両手が塞がっているとは思えない速さで蹴りを繰り出し、次々と改造人間を倒していく甚爾。

その見事な立ち回りは、あの五条悟を殺しかけたのも頷ける動きだった。

気づけば彼の言う通り、事態はあっという間に収束していた。


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戦いを終えた後、何事もなかったようにまた地面に座る甚爾。

そしてスズを解放すると、先程と同じ体勢に落ち着くのだった。


「あー…疲れた。」

「ありがとうございました。…甚爾さん、やっぱり強いですね。」

「まぁオマエよりはな。」

「…私が甚爾さんみたいに強かったら、先生を助けられたかな。」

「?」

「大事な人が…目の前で封印されちゃって…私、その時何もできなくて。だから…」

「それを今言って、何か変わんのか?」

「えっ…」

「オマエは確かに俺より弱い。もっと強かったら何かを変えられたかもしれない。けどそれ言ってどうなんだよ。

 後悔してたら時間が戻って、その"先生"とやらを助けられんのか?違ぇだろ。起きたことはもう変わんねぇ。

 …オマエは生きてんだから、前に進むしかねぇんだよ。グチグチ言ってねぇで、今できること考えろ。」

「甚爾さん…そうですよね…進むしか、ないですよね……ありがとうございます。」

「おぅ。つーかよ、今さっき会ったばっかの奴に悩み相談なんかすんな。」

「す、すみません。でも何か甚爾さんって…お父さんみたいで話しやすいんです。」

「!」

「まぁこんなにエッチなお父さん嫌ですけど。」

「俺もオマエみてぇなガキいらねぇよ。」


明るい笑顔を見せるスズに、甚爾もまた少し口角を上げる。

その表情には、どこか父性のようなものを感じるのだった。

今までと少し雰囲気が変わった甚爾の姿に、またも呆けるスズ。

そんな彼女を尻目に、当の本人は不意に立ち上がる。


「甚爾さん?」

「だいぶ気持ちよくなったし、そろそろ行くわ。」

「え、あ、はい…!」

「オマエこれからどうすんだ?」

「私は…今できることをやります。まだ治療を待ってる人がたくさんいるので。」

「そうか。まぁせいぜい頑張れ。」

「はい!」

「ふっ。じゃあな……スズ。」


そう言って笑みを見せながら、甚爾は初めてスズの名を呼んで頭をワシャワシャと撫でる。

温かい手の感触に癒され、スズもまた次なる現場へと向かうのだった。



to be continued...



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