甚爾と別れたスズは、今自分に出来ることを全うするため忙しく動き回る。

周りに溢れる改造人間を倒し、ケガ人がいれば即座に治療をし、合間には呪力を探り味方の状況把握…

体力や呪力が回復する間もなく動いていたスズだったが、ふとその疲れが吹き飛ぶほどの事態を察知した。


「悠仁の呪力が…消えた…?」





第74話 渋谷事変 ー捌ー





正確には完全に消えたわけではない。

だが限りなく弱く、肉体的には今にも死んでしまうようなレベルだった。

同期の危機にいち早く反応したスズは、すぐさま虎杖がいる渋谷駅構内へと向かった。

その道中、またも彼女を驚かす事態が起きる。


「! 今度は…宿儺!?」


虎杖の呪力が弱まっていくのと並行して、突如現れた宿儺の気配。

何が起きているのか分からないながらも、スズはより一層走るスピードを上げた。


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渋谷駅構内を、虎杖の呪力を辿って走り抜けるスズ。

そうして再会した同期は、顔や体に無数の深い傷を負い、意識が完全になくなっている状態だった。

更に彼の近くには、昨年の冬に夏油と共に高専へとやって来た2人の女子高生が立っている。

彼女達から感じる呪力量や強さと虎杖が負っている深い傷は、どう考えても一致しない。

よって彼女達は虎杖を傷つけた犯人ではない。

そう判断したスズは、2人を十分に警戒しながらも虎杖の元へ駆け寄った。


「悠仁…!」


素早く体全体を診たスズは、すぐに正の領域を展開して治療を始める。

と、不意に虎杖の顔に見覚えのある紋様が現れた。

目の前の変化と先程感じた呪力、そして近くにいる女子高生達…これらのことから導かれる答えは1つ。


「…アンタ達、悠仁に宿儺の指食べさせたでしょ。」

「だったら何よ。治療するなら早くして。」

「(体が弱ってるとはいえ、すぐには乗っ取られないはず…)悠仁、頑張って…!」


彼女達をキッと睨みつけた後、気持ちを切り替え、スズは再び治療に戻った。

しかしこの場にもう1つ、特級レベルの呪力が出現する。

治療の手を止め振り返ったスズの目に映ったのは、数時間前に師匠と戦っていた単眼呪霊・漏瑚。

あの時は相手が五条だから弱く見えていたが、彼以外の呪術師ではそうそう太刀打ちできる呪霊ではない。

ましてやここに至るまで呪力を大量消費しているスズが敵う相手ではなかった。

一気に緊張モードになる彼女を他所に、瞬時に事態を把握した漏瑚が敵意を向ける先は、指を食べさせた女子高生2人の方だった。


「チッ!貴様ら!指を何本喰わせた!!」

「言…言わない!!」

「美々子!!」

「そうか…死ね。」


そう言った漏瑚は2人を一瞬にして屠ると、治療に当たっていたスズの方へ歩いてくる。

震えそうになる体を抑え込み、虎杖を庇うようにスズは呪霊との間に体を割り込ませた。


「それ以上悠仁に近づかないで。」

「(木下スズか…五条悟が封印された今、コイツを殺すことは容易い。だが宿儺に対しても、コイツの扱いを間違えれば痛い目に遭うと、真人が夏油から言われたとか…

 となると、これから奴を呼び出そうとしているタイミングで手をかけるのは得策ではないな…ひとまず拘束だけしておくか。)」


しばらく無言のままスズを見つめていた漏瑚は次の瞬間、彼女を呪力で壁に押さえつけた。

そしてゆっくりと虎杖に近づくと、持っていた10本の指を次々に彼の口へ入れていくのだった。



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