朱雀の背から飛び降りた宿儺は、近くのビルに逃げ込んだ漏瑚を追う。

その行く先々で大爆発が起こり、スズや朱雀でなくとも王の居場所は容易に把握できた。

指15本分の力を得た宿儺の強さは凄まじく、漏瑚は防戦一方。

月明りに照らされたビル内で、王に弄ばれる呪霊は血まみれになっていた。





第76話 渋谷事変 ー拾ー





王と呪霊の戦いが激化していた頃、現場付近にはパンダとその担任の日下部がいた。

謎の術師コンビを相手に、今にも刀を抜こうとしていた矢先…

突如轟音と共に、恐ろしくでかい火の玉が頭上に現れた。


「聞け、呪詛師共!!なんでか知らねぇが特級同士が殺り合ってる!!

 蟻んこの上で、象がタップダンス踊ってんの!!一応言っとくけど、俺達が蟻な!!さっさと逃げ「ならん。」

「「「!」」」

「これより四方一町の人間全員、俺が"よし"と言うまで動くのを禁ずる。禁を破れば勿論殺す。」


この状況の中で戦っている場合ではないと敵側に訴えていた日下部だったが、その言葉は王の一言で遮られる。

気配を悟らせることもなく、気づけばパンダと日下部の間に両面宿儺が立っていた。

皆の焦る表情を楽しむように、彼の口元には笑みが浮かんでいる。

と、そこへ現れる1つの影…


「あ、いた!」

「スズ、来るのが遅いぞ。鳥はどうした。」

「朱雀は狭いところ苦手なの。っていうか、パンダ先輩に日下部先生!何してるんですか、早く逃げないと…!」

「うん、逃げたいのは山々なんだけどさ…動くなって言われてて…」

「え、誰に…宿儺!」

「何だ、こいつらはオマエの仲間か。」

「そうです!何言ったか知らないけど、2人に手出さないで…!」

「…分かった。オマエ達2人は解放してやる。」


スズの一言ですぐさま発言を変えた宿儺に驚きながらも、パンダと日下部は瞬時にその場を去った。

安全圏に入ったところで、日下部は乱れた息を整えながら言葉を発する。


「…おい、オマエの後輩どうなってんだよ。」

「ん?何がだ?」

「何がじゃねぇよ…相手は呪いの王だぞ!?普通に話して、おまけに言うことまで聞かせてるじゃねぇか!!」

「そりゃそうだろ。スズは宿儺のお気に入りなんだから。」

「はぁ…どうりで京都のじいさんが脅威に思うわけだ。アイツの一言で人間界終わるんだもんな。」

「スズはそんなことする奴じゃない。今さっきの行動が何よりの証拠だろ?」

「…まぁな。」


そんな会話をしながら、パンダと日下部はスズ達がいる方へと視線を向けるのだった。


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パンダと日下部が去った後、残された呪詛師達は未だ宿儺の戯れに付き合わされていた。

火の玉が刻一刻と近づく中、まだ彼からの"よし"は出ない。

だがすぐ傍に感じる熱に焦りを見せるのは、呪術師達だけではなかった。


「ちょっと宿儺…!」

「ん?何を焦ってる。」

「何を、って…もうすぐそこまで来てるよ!?」

「俺が言ったことを忘れたのか?」

「え?」

「俺がいる限り、オマエが傷を負うことはないと言っただろ。それより…覚悟は決まったか?」

「覚悟…って、何の?」

「次は貰うと言ったはずだ。」


そう言って怪しく微笑むと、宿儺は親指でスズの唇を優しく撫でた。

瞬間的に先程のやり取りを思い出したスズは、一気に顔に熱が集まる。

相変わらずの反応を示す想い人を楽しそうに見つめながら、宿儺は彼女の腰をグイと抱き寄せた。


「ちょうど観客もいる。俺とオマエの仲を見せつける良い機会だと思わないか?」

「ちょ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ…!早く合図出してあげて!」

「…何故、俺に集中しない。落ち着いて口吸いができないだろ。」

「しなくていい!っていうか、この状況で落ち着ける人なんていないから!」

「仕方ないな……よしっ。」


渋々といった感じでそう言い、宿儺はパンッと手を叩く。

それがまるでスタートの合図であるかのように、辺りにいた呪術師達は一斉に散らばっていった。



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