辺り一帯を押し潰すように落下した巨大な火の玉。
その上に、荒い呼吸を繰り返す漏瑚の姿があった。
「フーッ…フーッ…宿儺といえど、無傷では済むまい。」
「当たればな。」
「!」
驚く漏瑚が視線を向けた先には、火の玉の上に胡坐をかく無傷の宿儺がいた。
当然の如く、その腕には愛しの彼女を抱えている。
余裕の表情を崩さない宿儺に守られながら、スズは大切な仲間の異変を感じ取った。
「宿儺…」
「ん?どうした?」
「恵が何かやろうとしてる…すごく嫌な予感がするの。様子を見に行きたい…!」
「……分かった。何かあればすぐに呼べ。いいな?」
「うん、ありがと…!」
自分の元からスズが離れるのを嫌がり躊躇っていた宿儺だったが、彼女の強い意志を宿した瞳には勝てなかった。
そして朱雀と共にその場を去るスズに少し視線を向けてから、王は再び目の前の特級呪霊に語りかけるのだった。
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呪力を辿り、上空から伏黒の姿を探すスズ。
弱っていく同期の呪力に落ち着かない様子のスズだったが、彼女の視界に先に入って来たのは…
伏黒の術式の最終奥義…八握剣 異戒神将 魔虚羅だった。
「(恵…嘘でしょ…?)」
魔虚羅の前には呼び出し主の伏黒、そして彼の前には左サイドでポニーテールをした見慣れない呪詛師がいた。
自身も式神を使うため、スズも調伏に関する知識は持っている。
もちろん複数人による調伏についても…
この状況で、まだ調伏できていない魔虚羅を呼び出した理由は1つ。
「(相打ち…!)朱雀、急いで!!」
『キィー!!』
魔虚羅が伏黒目がけて腕を振り上げ、もの凄い音を響かせながら殴りつけた。
トップスピードの朱雀から飛び降りると、スズはこちらに吹っ飛んでくる伏黒とビルの間に入り硬度を上げた呪力を生成する。
呪力がクッションになり、何とか伏黒がビルに直撃することは避けられたものの、受け止めた反動でスズが代わりにビルへと叩きつけられた。
「ガハッ…ゲホッ…!ハァ…ハァ…恵!」
体の痛みを気にする間もなく、スズは目の前で血を流して倒れている同期を抱き起こす。
状態を確認すれば、あちこち血だらけで深い傷があり、呪力も限りなく0に近かった。
ここに来るまでの戦いを想像して胸を痛めるスズだったが、1つ大きく息を吐くと冷静に状況を整理し始める。
「(脈も呼吸もない…でもあの呪詛師と調伏を始めたんだとしたら、今のこれは仮死状態…まだ望みはある。)」
複数人で行う調伏の儀は、儀式を始めた術師全員が死んだ時点で、それぞれの死が確定する。
つまりその瞬間までは、先にやられた術師は仮死状態のままであるということだ。
現状に置き換えて言うなれば、ポニーテールの呪詛師・重面春太が死なない限り、伏黒は生き返る望みがあるということ…
「(誰だか知らないけど、アイツを守らなきゃ…!」)」
重面を助けるため、スズは彼に向かって拳を振り下ろそうとしている魔虚羅の元へ走る。
先程の衝撃で骨が砕け、動くことはおろか息をすることさえままならないスズ。
だがそんなことは、同期が命の危険に晒されている状況において何の足枷にもならなかった。
重面の体を引っ張り何とか魔虚羅の一撃から救出すると、スズは彼の不甲斐なさに怒りをぶつける。
「ちょっとアンタ!何ボケっとしてんの!?」
「は?な、何だよオマエ…!」
「アンタに死なれたら困るの!!早く逃げて!」
「! う、後ろ…」
重面の声に振り返ったスズの眼前に、魔虚羅の巨大な体が迫っていた。
to be continued...
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