自分にとって大切な2人を残し、宿儺は戦場へと足を踏み出す。
と、すっかり存在を忘れていた重面が恐る恐る王に声をかけた。
「あっ、あのぉ〜」
「黙れ。おとなしくしていろ。」
「ひっ…!」
「分かってると思うが…そこにいる女に手を出したら、あの式神をやってからオマエを殺すからな。」
恐ろしく冷たい目を重面に投げかけ、それから視線を式神の方へと向けた。
魔虚羅の初手を右腕で受け止めた宿儺は、王と呼ばれるに相応しい攻撃と頭の回転で式神と渡り合う。
だが何度目かの魔虚羅の攻撃をまともに喰らい、宿儺は遥か彼方に吹っ飛ばされてしまうのだった。
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「宿儺…!!」
自分の力を8割方取り戻した宿儺が彼方へ吹き飛ばされるのを目の当たりにして、スズは思わず彼の名を呼んだ。
後を追いかける魔虚羅に不安を覚え、自分も行かねばと思ったものの、ボロボロの体は思い通りに動かない。
代わりに式神の中で一番しっかりしている水の神・ワダツミを呼び出すと、宿儺の様子を見てくるよう指示を出した。
激しい攻撃の音が聞こえる度に呪力を探り、宿儺と魔虚羅の生死を確認するスズ。
そんな落ち着かない状況では、自分に対する治療などする気にはなれなかった。
しかし王の言いつけである以上、多少は体を回復しておかないと、あとで何を言われるか分かったものではない。
スズはしばし戦況を意識から追い出し、回復に努めようとしたのだが…
『スズ!』
「ワダツミ!何かあったの!?」
『宿儺が…領域展開するかもしれない。』
「えっ、ここで!?一般の人もいるんだよ!?」
『スズと恵を守るためなら、アイツは何でもやるわ。それがたとえスズとの約束を破ることになるとしても…』
「そんな…」
一般人の完全避難が終わっていない今の渋谷で領域展開をすれば、当然ながら被害は術師だけでは済まない。
何の関係もない人間が死ぬことに一番心を痛めるのは、宿儺と体を共有している虎杖だ。
このまま宿儺の領域展開を許せば、彼と入れ替わった虎杖は精神的に崩壊する…
「……ありがとう、ワダツミ。解除するね。」
『待って。何するつもり?』
「別に何も…」
『悟の言葉じゃないけど…何年一緒にいると思ってるの。』
「!」
『私達はスズに仕えてる式神なのよ?主が何かをやろうとしてるってことぐらい分かるわ。』
「ワダツミ…」
『昔からあなたは危なっかしいのよ。だから私達がしっかり見ててあげないとね。』
そう言って、ワダツミは自分の主に優しく微笑みかけた。
その優しさに目をうるませながら、スズは四獣・五行全員を呼び出し、静かに話し始めた。
彼女がやろうとしていることはこうだ。
宿儺が領域展開するのと同時に、自分自身も正の領域展開をする。
普通の状態では王の領域に押し負けて終わるが、今彼女の体内には五条だけでなく、王自身の呪力も大量に入っている。
その負の力を全て正に変換すれば、元々持っている力と合わせて相当な威力になる。多くの人を救える。
そして何より虎杖の心を守れる…スズはそう言って、話を締めくくった。
「…ダメ、かな。」
『無謀すぎるわね。』
『スズって偶にこういうこと言いますよね〜』
『僕はそういう無茶苦茶なところ好きですよ。』
『そうだね!それでこそあたし達の主だよ!』
『つーか、俺達がダメって言ったら止まんのかよ?』
呆れたように笑う火の神・カグツチにそう問われると、スズは気まずそうに首を横に振った。
主のその仕草に、式神達は一斉に笑いだす。
全員の笑いが収まると、今度は穏やかな笑みを向けながら声をかけた。
『なら俺達は、スズを全力で守る。』
「えっ…?」
『オマエ、やるってなったら歯止めきかねぇだろ?呪力全部使ったら、マジで死ぬからな?』
「わ、分かってるよ…!」
『本当に分かってますか〜?』
『意外とおバカなとこあるからね〜スズは!』
「うっ…」
『ふふっ。スズは全力で領域展開するだけで大丈夫です。僕達がフォローしますから。』
『私達の呪力を少しだけスズの体内に置いていく。その場所は私達式神しか知らないから、スズは領域展開には使えない。』
「だから皆の力が少し残る…その力があれば、死なずに済むってこと?」
『えぇ。もちろん呪力の回復までは相当な時間がかかるし、私達を呼び出せるのはだいぶ先になるかもしれない。でも生きてる。どう?』
「そんなの…最高に決まってるじゃん!ありがとう…!」
式神達からの提案に、スズの涙腺はついに崩壊した。
四獣は涙が止まらない主に寄り添い、五行の式神達は互いに笑みを向けながら主を見守る。
グイと涙を拭ったスズが顔を上げれば、9体の式神達が主の方を見つめていた。
と、その中のやんちゃ坊主がスズに飛びついてくる。
「うわっ…!カグツチ!?」
『あー…しばらく会えねぇのかよ…つまんねぇ。』
「皆のこと早く呼び出せるように、呪力の回復頑張るから!」
『早く会いてぇからマジで頑張れ。』
「うん!」
『スズ…』
「ん?」
『…大好き。』
「!」
『俺ら皆、オマエのこと大好きだから…それだけは忘れんな。』
思わぬ言葉にドキドキしながら周りを見回せば、他の式神達も笑顔で頷いていた。
胸に温かいものを感じ、スズはカグツチの背中に手を回しギュッと抱きついた。
「ありがとう!私も皆のこと大好き!」
to be continued...
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