一旦式神達を解除すると、スズは静かに目を閉じた。
少しずつ回復してきている五条ベースの負の力、そして今さっき大量に送り込まれた宿儺の力。
体内を巡る最強の負の呪力を、すべて正の方へと変換する。
そして…
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前……領域展開 "癒力円満"」
辺り一帯に、オレンジがかった温かい領域が展開された。
第78話 渋谷事変 ー拾弐ー
究極の後出しじゃんけんを術式に持つ魔虚羅を倒すには、初めて見せる技で適応前に仕留めるしかない。
長年の経験と実際に手を合わせた感覚から、その結論を導き出した宿儺。
となれば、やることは1つ。
「領域展開 "伏魔御廚子"」
スズの領域展開から3分後…
ワダツミの予想通り、呪いの王が領域を展開した。
愛しのスズと、生かすべき伏黒への影響を考慮し、効果範囲を半径140mの地上のみに絞る。
その範囲内で呪力を帯びたモノには"捌"が、呪力のないモノには"解"が絶え間なく浴びせられるのだった。
しかしそれを受けても尚、魔虚羅の体は再生し、また無傷の状態に戻ろうとする。
そこへ止めの一撃として炎の矢を放った宿儺は、ついに魔虚羅との勝負に決着をつけた。
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魔虚羅の頭上に浮かんでいた法陣を片手に、宿儺はスズと伏黒がいる場所へと戻って来た。
自分の方を呆然と見つめる重面は、最早彼の視界には入っていない。
今宿儺の目に映っている人物はただ1人…呪力を使い果たして倒れているスズだけだった。
死んでこそいないが、完全に意識を失っている想い人を抱き起こすと、呆れたようにため息をつく。
「…馬鹿が。オマエへの説教は後だ。少し待っていろ。」
言葉とは裏腹に、スズを再び地面に寝かせるその動きは、実に優しいものだった。
そうして彼女から離れた宿儺は次に伏黒を抱え、家入と夜蛾がいる救護所へ向かう。
姿を見られないよう一瞬でその場を後にすると、彼はもう一度スズの元へと舞い戻った。
領域展開をする前から、スズの呪力には気づいていた宿儺。
あの状況で彼女が一般人を守るためには、正の領域展開を発動するしか方法はない。
しかしまさか自分が与えた大量の呪力まで使うとは、いくら王でも予想できなかった。
そのスズの頑張りのお陰で、一般人の被害はほとんど発生していない。
多少のケガ人は出たが、どれもこれも治療を受けずとも治る程度のものだった。
「オマエは俺が目を離すとすぐ無茶をするな。怪我も全く治していないし…少しは言うことを聞いたらどうだ?」
"…まぁ、そんなところも好いているがな"
最後にそう言って少し笑みを見せながら、宿儺は愛おしそうにスズの頬を撫でた。
そして改めて彼女の体に呪力を流し込もうとしたが、このタイミングで体に違和感を感じる。
「(! そろそろだな…)」
指の大量摂取によって奪われていた主導権が、ようやく虎杖へ戻ろうとしていた。
またしばらく目の前の想い人には会えなくなる。
その事実に不満そうな表情を見せた宿儺だったが、すぐにフッと笑みを見せると、スズのおでこに再び唇を寄せた。
「口を奪うのは次の機会にする。寝込みを襲ってもつまらんからな。…それまで誰にも触れさせるなよ?」
撫でるようにスズの唇に触れた宿儺は、肉体の権利を虎杖へと明け渡した。
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