スズが伏黒の様子を見に行くため、自分の元を離れた後…
宿儺は漏瑚をいとも簡単に燃やし尽くした。
燃えゆく呪霊を眺めていた王の元に、白髪の人物が音もなく参上する。
「宿儺様、お迎えに参りました」
「誰だ」
「…」
「! 裏梅か!!」
「お久しうございます」
かつて自分に仕えていた人物の登場に、嬉しそうな表情を見せる宿儺。
懐かしさから話も弾むかと思いきや、不意に感じ取った想い人の危機的状況に王は動き出そうとする。
「…どちらへ?」
「俺の女に危険が迫っている。……オマエに1つ命を下す」
「何なりと」
「俺が肉体を抜けた後、木下スズという女を守れ」
「宿儺様にとって大切なお方なのですね」
「あぁ、命に代えても惜しくはない。傷一つ負わせるな」
「(! そこまで…)御意。見た目の特徴は…」
そう問いかける裏梅に、宿儺は口角を上げながら自分の体を指さす。
"俺の呪力を探せ。他に1人しかいない"
裏梅の返事を待たず、呪いの王は一瞬にしてその場から消えた。
第80話 渋谷事変 ー拾肆ー
「(体内から宿儺様の呪力…間違いない)木下スズ様ですね。私、裏梅と申します」
「うら、うめ…?」
「宿儺様より、貴女様を守るよう言われております。傷一つ負わせるな、と」
「アナタ、宿儺の仲間なの?」
「はい。長年仕えております」
膝をついたまま、裏梅はスズの質問に穏やかに言葉を返す。
突然のことで上手く状況が整理できないスズだったが、それでも仲間の危機をどうにかするため考えを巡らす。
"氷の呪いを解いて"
そう訴えるスズに、裏梅は申し訳なさそうな表情を返した。
「スズ様のお言葉でも、それは致しかねます。私が言われているのは、あくまで貴女様の身の保障のみ。それ以外はどうでも良いのです」
「そんな…!」
「この状況では、いつ何時攻撃が飛んでくるか分かりません。つきましては…」
裏梅がサッと両手を地面につけた途端、スズの周りを檻のように氷が取り囲んだ。
中からドンドンと叩いてみるが、ヒビが入ることはおろか、少しのグラつきも感じられない。
「どうなってんの、これ…」
「(スズ…!クソっ…でももうちょっとで動けそうだ…!)」
「殺すなよ。伝達役は必要だ」
「全員生かす理由になるか?私はスズ様に傷がつかなければそれでいい」
「それに関しては私も同意見だ。やはり彼女の力は素晴らしい。宿儺の力も追加されて、ますます面白いことになっているしね」
そう言って、スズの方へ怪しい笑みを向ける偽夏油。
彼の視線を避けるように顔を背けると、スズは仲間達の様子を不安そうな表情で見守る。
氷漬けにされている面々は、下手に動けば体が割れる恐怖を感じ、手も足も出ない。
そんな中でいち早く脱出したのは、宿儺と体を共有している虎杖だった。
すぐさま自分の方へ向かって来ようとする彼を、スズは手のひらを向けて止める。
「スズ!!」
「悠仁、ストップ!私は大丈夫!今のところ何の被害もないから!」
「でも…!」
「それより後ろ!」
スズの声に振り返った虎杖は、先程から自分のことを弟だと言い続けている脹相がやられそうになっているのを目撃する。
慌てて駆けつけ氷を砕けば、すっかり打ち解けた軽妙なやり取りを交わしていた。
急ごしらえの兄弟と、唯一空にいて呪いを回避した西宮の3人で、再び偽夏油&裏梅と対峙する。
「虎杖君!!今動けるのは私達だけ!歌姫先生の準備ができるまで時間を稼ぐよ!!」
「伝達役なんて…虎杖悠仁とスズ様で事足りるでしょう!!」
「裏梅さん、やめて!!」
スズの叫びも虚しく、先程よりも強力な氷の呪いが虎杖達に襲い掛かる。
ガチガチに固まった体に無数の氷柱が降り注いだ。
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