あの日、渋谷で放たれた無数の呪霊。

その呪霊により、東京都は1週間も経たぬうちに壊滅状態になった。

要人・一般人を問わず多くの死者や行方不明者が発生し、ライフラインも絶望的。

術師が総力を挙げて避難民の警護に当たるが、次々に発生する呪霊に対応は後手に回っていた。

そんな混沌とした情勢の中、呪術総監部は6つの通達を発表した。


一、夏油傑生存の事実を確認。同人に対し再度死刑を宣告する。

二、五条悟を渋谷事変共同正犯とし呪術界から永久追放。かつ封印を解く行為も罪と決定する。

三、夜蛾正道を、五条悟と夏油傑を唆し渋谷事変を起こしたとして死罪を認定する。

四、虎杖悠仁の死刑執行猶予を取り消し、速やかな死刑の執行を決定する。

五、木下スズに五条悟及び特級呪物・両面宿儺との密接な繋がりを確認。術式封印の上で無期限の幽閉を決定する。

六、虎杖悠仁の死刑及び木下スズの幽閉執行役として、特級術師・乙骨憂太を任命する。





第81話 堅白 / 禪院家





時は少し遡り、10月31日のあの時間へ…

高専メンバーが、偽夏油が放った呪霊の対応に追われていた…あの時だ。

呪力が少ないため、体術と軽い結界で何とか応戦していたスズ。

そんな彼女の周りを、突如冷気が取り囲んだ。

そして"冷たい"と感じる間もなく意識を失ったスズを包み込んだ冷気は、辺りの喧騒に紛れて主の元へと戻って来る。


「裏梅、彼女をどうするつもりだ?」

「宿儺様から守るように言われている。この場に置いて行くわけにはいかない。」

「目が覚めるまで、君がずっと守るのかい?」

「呪力が回復するまで誰にも邪魔されない場所で休ませる。」

「なるほどね。じゃあ私にもその場所を教えてくれないか。あとで会いに行きたい。」

「スズ様のことはオマエには関係のないことだ。しばらく別行動を取る。」


言い終わるか否かのタイミングで、裏梅はスズを抱えて姿を消した。

つれない態度を取られ苦笑した偽夏油は、自身もまたこの場を後にする。

虎杖が彼女の不在に気づいたのは、それから数分後のことだった。


「……スズ?」


呼びかけても、返事はもちろん、呪力の残穢さえ感じ取れない。

あのフラフラした状態で、誰にも見つからず姿を消すことは困難だ。

間違いなく敵側の仕業だと、虎杖は直感した。

すぐにでも探しに行こうと動き出す虎杖だったが、そもそも呪力探索が苦手な上に、大量の呪霊が彼の行く手を阻む。

呪霊の相手をしながら悔しさを滲ませる彼の姿に、自称兄の脹相もまた心配そうな顔を向けていた。


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特級術師がいたこともあり、事態は一旦落ち着きを取り戻す。

ここに至るまで激しい戦いが続き、高専メンバーは誰も彼も疲労困憊状態であった。

そんな中、スズのことで気落ちしている虎杖に対し九十九が声をかける。


「すまない。あの時迷った。ここまで事態が進んでしまったのであれば、一度泳がせて様子を見るべきなのではと。

 気づいたかな。私は君達の味方というわけではないんだ。ただ世界から呪霊をなくしたいだけの、しがない美女さ。

 お詫びと言ってはなんだが、あの場にいた子達は私と私の仲間が責任を持って送り届けるよ。私もいい加減、天元と向き合わないとね。」


"君はどうする?"

最後にそう問いかけた九十九は、虎杖の返答を待つ。

彼はただ無言で首を横に振った。



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