都内某所にある廃ビル。

その屋上に突如3m四方の氷の塊が出現した。

中には大きな空間が広がっており、簡易的なベッドが置いてある。

そしてベッドの上には、ぼんやりと虚ろな目をしたスズの姿があった。


「裏梅、さん…?」

「スズ様、この部屋の周りには結界を張ってあります。呪霊に襲撃される心配はありませんので、ゆっくり体を休めてください。」

「…はい。……ありがとう、ございます。」

「いえ。」


穏やかな表情でそう言った裏梅は、静かに頭を下げる。

目を閉じ、深い眠りに入っていくスズの姿を確認すると、裏梅は音もなく氷の部屋を出て行くのだった。


------
----
--


渋谷事変から3日後…

何の前触れもなく覚醒したスズは、のろのろと体を起こす。

氷で造られた部屋にも関わらず、室内は全く寒さを感じず快適な温度を保っていた。

自身の呪力量を確かめれば、まだ2割程度しか回復していないことが分かる。

式神達を呼ぶことはもちろん、反転術式もまだ自由には使えないだろう。


「やっぱり時間かかるなぁ…」


ボソッと呟いたスズだったが、その表情に後悔の色は見られない。

呪いの王から一般人を守るためには、あの方法しかなかった。

何より虎杖の精神的負担が少しでも軽くなるなら、このぐらいの代償は安いものだ。

そんなことを考えていたスズは、ふと今話題に上がった人物のことを想う。


「…悠仁、どうしてるかな。」


スズが守ったとはいえ、宿儺の行動が虎杖の心に暗い影を落としたことは間違いない。

その彼が今どうしているのか。ちゃんと心を保てているのか。

スッと目を閉じたスズは、虎杖の呪力を探し当てるとすぐに氷の部屋を飛び出した。



- 239 -

*前次#


ページ:

第0章 目次へ

第1章 目次へ

第2章 目次へ

第3章 目次へ

第4章 目次へ

第5章 目次へ

第6章 目次へ

章選択画面へ

home