伏黒が部屋を出ていくのを確認してから、残された虎杖はそのままスズの方へ視線を移した。
相変わらず意識は戻っておらず、よく見ればおでこの辺りからは血が出ている。
そのどう考えても危険な状況を見て、虎杖にも迷いが生じる。
あのまま伏黒と一緒に逃げた方が良かったのではないか…と。
だが特級呪霊が虎杖のそんな思いを分かるはずもなく、自身の腰に巻いていた布みたいなものを取り払い戦闘態勢に入っていた。
「動きやすくなりましたってか。ふんどしかい。
(いくら殴っても効きやしねぇ。そりゃそうか…呪力の使い方なんてまるで分かんねぇしな。でも今はそれでいい。時間を稼…)」
虎杖がそう考えたのも束の間、気がついた時にはもの凄い力が体を襲い、息ができなくなるぐらいの衝撃で壁に叩きつけられていた。
今、特級呪霊は攻撃をしたわけではない。ただ呪力のバリアを張っただけ。
それでも油断すれば死に至るような威力だった。
尚も特級呪霊の攻撃は続く…
そして先ほどのバリアのようなものを再び虎杖に向けて放つ。
どう抵抗していいのかも分からず、彼はただただ必死に両手を前に出していた。
「ぐ…う"ぅ!!う"う"う"う"!!」
だが素手で呪力を防げるわけもなく、彼の右手の指がジュクジュクと音を立てて失われていく。
全身が悲鳴を上げ、あちこちから血が噴き出し、目には涙が浮かぶ。
「(痛い痛い痛い!辛い辛い辛い!なんで俺が!!あの時俺が指なんて拾わなければ!!あの時!あの時!)」
「(やめろ!!考えるな!!)」
「(嫌だ!!もう嫌だ!!逃げたい!!逃げたい!!死にたくない!ここで死んで!死んだとして!それは"正しい死"か!?)」
「(考えるな!!!)あ"ぁあああ!!!」
虎杖の中で、相反する想いが飛び交う。
指を拾ったあの日を後悔する自分…そんな自分を認めたくない自分…
肉体も精神もボロボロになった彼は、ついに特級呪霊の力に押し負けてしまう。
「(俺はこんなに弱かったのか!!)」
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虎杖が絶望に陥っていた頃、彼の心からの叫びに呼応するように、彼女が目を覚ます…!
「うっ…悠仁…?いでっ!!」
声の持ち主を探そうと体を起こした途端、激烈な痛みが体に走り、スズは声を上げた。
額から流れてくる血を拭いながら、意識を失う直前、自分に何が起こったのかを思い出す。
そしてその出来事と今感じている痛みの数々を考え合わせて出た結果は…
「…これ肋骨やってるな。マジか…どうりで痛いわけだ…」
息をするだけでも痛いので、自然と呼吸が荒くなる。
何とか痛みだけでも取ろうと回復の術式を使いながら、周りの様子を探る。
釘崎がいないのは分かる。では虎杖と伏黒はどこに…?
「(そういえばさっき悠仁の声が聞こえたけど…)」
キョロキョロと目を動かせば、ある一角にどでかい穴が開いていた。
自分が意識を失う前は確かに塞がっていた場所に、あれだけの大きさの穴を開けられるのは特級呪霊しかいない。
それはつまり、虎杖か伏黒が特級呪霊と戦っているということ。
だが釘崎の捜索には伏黒の探索能力が必要不可欠…となれば、導かれる答えは1つ。
「…恵が野薔薇の捜索、その間悠仁が特級を食い止める…これだ。だとしたら、悠仁が危ない…!」
呪力操作もままならない虎杖に特級呪霊の相手ができるわけがない。
さっきの叫び声は明らかに命の危機を感じているものだった。
取り急ぎ、戦いに支障が出る骨折の痛みだけを取り去り、スズはどでかい穴の方へ走った。
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