-side 虎杖-
左手首と右手の指がなくなった自分の手…
体は痛くないところがないくらいだし、血も出まくってる。
言葉が分かんねぇ呪い相手に言うことじゃねぇけど、何故か言葉が次から次へと出てきた。
「自惚れてた…俺は強いと思ってた。死に時を選べる位には強いと思ってたんだ。でも違った…俺は弱い。
あ"ー!!死にたくねぇ!!嫌だ!!嫌だぁ!!!でも…死ぬんだ…」
涙が勝手に溢れてくる。
俺は誰も守れず、ここで1人死んでくのか…!
その時、不意に胸の辺りがあったかくなるのを感じた。
右手を当てれば、そこにはスズから貰って首に下げていた白い勾玉があった。
"軽いケガや痛みだったらこれをかざせば治るし、1回だけならこれを投げつければ身代わりになる。"
これを貰った時に言われた言葉が頭に浮かんでくる。
でも俺のこのケガはもう軽いものじゃないからたぶん治らない。
じゃあ投げつけて、その間にスズを連れて逃げるか?
答えは…ノーだ。今これがなくなったら、俺はマジで1人になっちまう…
もしかしたらあの時スズを残すように言ったのも、ただ1人になりたくなかっただけなのかもしれない。
最低だ…俺は…ごめん、スズ。
「(こんな俺が…"正しい死"か?じゃねぇよ。甘えんな。)」
"呪術師に悔いのない死などない"
「(それでもこの死が正しかったと言える様に…!)」
"呪いは人間の負の感情から生まれる"
「(ならば憎悪も、恐怖も、後悔も…全て出し切れ!拳に…のせろ!!)」
そうやって必死の想いで打った攻撃は、いとも簡単に受け止められる。
ニヤニヤしてるとこを見ても、全く効いてないのは明らかだった。
その時…!
「悠仁!!」
「! スズ…?」
「…悠仁に触んな。」
さっきまでいた部屋の方から声が聞こえてきたかと思えば、次の瞬間には目の前にスズの背中があった。
どうやって移動したんだ?とか、体は大丈夫なのか?とか、いろいろ聞きたいことはあったのに…
もの凄い呪力で呪いを吹っ飛ばしたスズが、"大丈夫…じゃないよね"ってこっちを振り返った途端、力が抜けてそのままスズを抱きしめてた。
当たり前だけど、首にかかってる勾玉よりずっとあったかくて…
その間近に感じたスズの存在に安心した俺は、膝から崩れ落ちた。
「うおっと…!ちょっと待って…今、寄りかかれるとこまで行くから…!」
俺より身長も体重も小さくて軽いのに、どこにこんな力があるんだってぐらい、スズは簡単に壁際まで移動した。
そして壁を背にして俺を座らせると、少し笑顔を見せた後、真剣な表情で何か唱えながら手を動かし始めたんだ。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前……領域展開 "癒力円満"。」
聞きなれねぇ言葉が終わると、俺とスズを包み込むように丸い空間が現れた。
少しオレンジっぽい色をしたこの空間は、上手く表現できねーけど…すごく居心地が良かった。
「…何かふわふわする。」
「ふふっ、そうかも。この空間はね、正のエネルギーでいっぱいになってて、ケガの治療とか手足の生成ができる場所なの。
でもこの左手首の生成は時間がかかるから、私が直接力を送る。悠仁はゆっくり呼吸しながら、目閉じてて?」
"大丈夫"
そう言って優しく笑ったスズは、俺の左手に両手をかざして集中モードに入った。
今まで激痛しか感じなかった左手から、少しずつ痛みが取れていく。
改めてその凄さを感じながらも、スズが手が届きそうで届かない位置にいることが無性にもどかしくて…
俺は思わず名前を呼んでたんだ。
「…スズ。」
「ん?どうした?」
「…もう少し……近くにいて、欲しい。」
「! あ、えっと…じゃ、じゃあ…私に寄りかかる?体ツラくなければ、だけど…」
その言葉に、自分でも驚くぐらい素直に頷いてた。
一旦左手の治療を止めて俺の近くに来たスズは、左肩に頭を乗せて寄りかかった俺の背中を優しく叩きながら、右手だけでまた治療を再開してくれた。
スズの体温も、左手に感じる呪力も、背中を叩くリズムも、全部が心地いい。
ちょっと前まで死にかけてたのが嘘みたいだ。
でもだからこそ、あのことを謝りたいって思ったんだ。
「スズ、ごめん。」
「ん?何が?」
「…俺、伏黒がここから逃げようって言った時…スズは動かさない方がいいって反対したんだ。」
「うん。でもそれは私が気失ってたからでしょ?」
「それはもちろんある…でもそれだけじゃない。」
「?」
「俺…1人になりたくなかったんだ。だから…スズを残すように言った。スズのケガは全部無視して、自分のことしか考えてなかった…マジでごめん。」
「……話はそれで終わり?」
「え、あ、うん。」
「だとしたら、悠仁が謝る意味が分かんないんだけど。」
「へ?」
「"動かさない方がいい"っていう言葉は、私の体を心配してくれてないと出てこないよ。
悠仁が本当に自分のことしか考えてないクズ野郎だとしたら、まずそんな優しい言葉は出ない。
だから、悠仁は何も謝る必要ない。分かった?」
「でも…」
「むしろ謝らなきゃいけないのは私の方。一番大事な時に悠仁を1人にした…1人で戦わせて、こんなにボロボロにさせた。だから私の方こそごめん…」
「なんでスズが謝んだよ!スズはなんも「だから!お互い様…ってことじゃ駄目かな?」
「! …うん。お互い様…ってことで、いい。」
「ありがとう。あとね、悠仁はもう1人になれないと思った方がいいよ。」
「ん?どういうこと?」
「ここに入る前に言ったでしょ?"私達は4人でチーム1年なんだ"って。恵も野薔薇も、もちろん私も…もう悠仁から離れるつもりないよ。
たとえ物理的に離れてたとしても、私達はちゃんと繋がってる。もう1人になることはないから、そんな不安そうな顔しないの!」
そう言って笑いながら、スズは俺の頬を軽く抓った。
痛くも痒くもないその抓り方は、ただただ優しくて…俺はまたスズの肩に頭を乗せて、その距離を詰めたんだ。
どれだけ時間が経ったかな…
あまりに穏やかな時間が流れてたから、俺はすっかり忘れてた。
まだ、アイツが生きてるってことを。
不意に聞こえた瓦礫が崩れる音に、俺もスズも瞬時に体を硬くした。
でもその時、もう1つ聞こえてきた音があった。
「アオーォォン…アオーォォン…」
「ん?玉犬の声…?なんだろ…」
「(この…鳴き声は…伏黒の合図…!!)」
「悠仁?どうかした?」
「…スズ、また後でな。」
「へ?」
「つくづく忌ま忌ましい小僧だ。」
瓦礫の音とほぼ同じタイミングで聞こえてきた玉犬の声。
それを合図に、虎杖の体に変化が現れる。
顔には見覚えのある文様、そして声は…
虎杖が指を食べたあの日、虎杖が初めて高専に来たあの日、彼の体から聞こえてきた、低く威圧感のある…あの声だった。
to be continued...
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