"あ、憂太先輩!"
そう声をかけようとしたスズだったが、突如目の前が暗くなる。
声も出なければ、体も動かせない。
成す術もないまま、スズはまたしても虎杖と離れ離れになってしまった。
第83話 執行 〜 お兄ちゃんの背中
不意に現れた五条レベルの呪力を持つ人物。
その圧倒的な存在を前にした虎杖と脹相は、スズがいなくなっていることに未だ気づいていなかった。
ビルの屋上からこちらへと降りてきた彼は、もの凄い音を響かせながら道路脇の塀を破壊する。
「誰が虎杖君の…何?」
「やはり悠仁とスズに対する刑の執行人か。」
「! ちょっと待って…スズは?スズがいねぇ!!」
スズの名前が出たことで、2人はようやく彼女の不在を知る。
さっきまでは確かに自分達の後ろにいた。
だが不気味な呪力を持った男に気を取られ、スズが連れ去られたことに気づけずにいた。
"守るって誓ったのに…"と拳を握り締める虎杖を無視し、金髪男はゆるい口調で言葉を発する。
「ちょい待って。味方やで。君、乙骨君やろ。」
「(! 乙骨…伏黒が言ってた2年の…五条先生と同じ特級術師…!)」
「アナタは?」
「禪院直哉、真希ちゃんのいとこや。君と同じで虎杖君殺せって言われとる。安心しぃ、君の邪魔はせぇへん。その代わり…
虎杖君を殺しても、そのことを上に暫く黙っててくれへん?彼を餌に会いたい人がおんねん。」
「いいですよ。じゃあそっちは任せます。」
乙骨と直哉が淡々と会話を進める中、虎杖と脹相もまた小声で会話を続けていた。
自分が直哉の相手をするから、虎杖はスズを捜しつつ乙骨から逃げろ、と。
それぞれのペアの会話が終わると同時に、4人は一斉に動き出した。
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一方その頃、スズはどうしたかと言えば…
自分を連れ去った特級過呪怨霊・祈本里香と共に、謎の時間を過ごしていた。
先程までいた場所からそう離れていない工事現場で解放されたスズ。
すぐにリカの存在を認識し、血の気を失う彼女だったが、待てど暮らせど事態は動かない。
痺れを切らしたスズが"リカちゃん…?"と呼びかけてようやく、過呪怨霊は口を開いた。
「憂太からァ…」
「え、憂太先輩?」
リカがスズに手渡したのは、堅苦しい言葉で書かれた1枚の書類と乙骨からの直筆の手紙だった。
スズが受け取ったのを確認すると、リカは彼女を守るように両腕で包み込む。
書類の方には、呪術総監部が発した6つの通達が書かれていた。
そこには自分や虎杖だけでなく、五条や夜蛾の名前も見受けられ、それぞれの内容の酷さにスズの表情は曇っていく一方だった。
そんな彼女の表情が驚きに変わったのは、6つ目の項目を読んだ時…
「憂太先輩が刑の執行役!?」
だとすれば、あの時乙骨は虎杖を殺すために来たということだ。
そして自分の方には、特級の名を冠す呪霊・リカがいる。
しかしそのリカに、今自分は守られながらこの書類に目を通しているのだ。
訳が分からず混乱するスズだったが、とにもかくにも手紙を読もうと封を開けた。
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