シンプルな封筒の中には、3枚の便せんが入っていた。

1枚目は久しぶり!元気だった?という挨拶から始まり、スズや2年生達に会えなくて寂しい旨、そして自身の近況が延々と綴られていた。

文面から伝わるのは、最後に会った時と変わらない優しくて穏やかな乙骨の姿。

会えない期間が長くても、特級術師として激務をこなしていても、彼は全くブレていなかった。

その事実に思わず笑みが漏れるスズだったが、2枚目に目を通した途端表情が変わる。

自分に何かあった時、スズと虎杖を中心に1・2年生のことを守って欲しいと、五条から頼まれたこと。

他からの干渉を避けるため、自分が刑の執行役として名乗りを上げたこと。

上の目を誤魔化すために虎杖を殺し、スズを幽閉するという一連の芝居をするつもりだということ。


「お芝居…!」


だが手紙はこう続く。

五条サイドにいる自分が執行人になるためには、上からの信頼が必要である。

そのために虎杖の殺害とスズの幽閉を"縛り"として結んだのだ、と書かれていた。


「"縛り"ってことは、本当にやらないと憂太先輩が罰を受けちゃうってことだよね?」

「そんなごどさせないィ!!」

「分かってる!分かってるから、落ち着いてリカちゃん!」


急に感情的になるリカをなだめてから、スズは更に手紙を読み進める。

虎杖の方は自分がどうにかする。

だからスズには幽閉されたフリをして欲しい。


「フリって言われても…どうやって…」


そう呟きながら、スズは最後の便せんに目を通す。

そこにはスズにやって欲しいことが、たった1行で書かれていた。


"リカちゃんから受け取った匣に、スズちゃんの呪力で包んだ形代を入れて欲しい"


上が用意した幽閉用の匣は、仕組み的にも大きさ的にも獄門彊と似ている。

そこに陰陽師ならば簡単に扱える形代を入れろと言うのだ。

文字通り、自分の身代わりとして。

いずれはバレるだろうが、少しでも時間を稼ぐためだ…という言葉で、手紙は締めくくられていた。


「なるほど…いろいろ考えてくれたんだなぁ。ありがたいや…!」

「ん。」

「あ、これが書いてあった匣か…ありがとう!」


手紙を読み終わると同時に、リカから小さな匣を受け取るスズ。

そしていつも携帯している形代を取り出すと、呪力を込めてから匣へと飛ばした。

スーッと吸い込まれた形代は、中でガタガタと少し動く。

傍目には、スズが入っているように見えなくもない。

時折動きを見せる匣をリカに返してから数十分後、彼女は突然ソワソワしだす。


「ん?リカちゃん?」

「憂太が呼んでるゥ…行ぐゥ…」

「え、あ、うん!」


目の前に差し出された手の上に座ると、リカはスズを乗せたまま主の元へと移動を始めた。



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