玉犬の声に続いて聞こえてきた、低く威圧感のある声…
突如耳に入ってきたその声に、スズは驚きを隠せなかった。
「つくづく忌ま忌ましい小僧だ。」
「えっ…?」
「だがこの空間と、オマエの抱き心地は悪くない。」
「うわっ…!ちょ、えっ!?」
「ちゃんと会話をするのは初めてだな…木下スズ。」
「す、宿儺…?」
「会いたかったぞ。」
そう言ってスズの頬に手を添えながら怪しく微笑むのは、虎杖と入れ替わった両面宿儺だった。
第8話 呪胎戴天 ー参ー
急な出来事にあたふたしているスズを面白がりながら、宿儺は気持ち良さそうに再度彼女を抱きしめる。
呪いの王のその積極的な行動だけでも大変な問題だが、それより何より今一番気にかかっているのは、ゆっくりとこちらに向かって来ている特級呪霊だ。
スズが宿儺の体を叩きながら現状を訴えると、当の本人は面倒臭そうにチラッと呪霊を見やる。
そして"邪魔するな"と一言呟いたかと思えば、ボコッと治した右手の指を振って軽く呪力をぶつけた。
だがぶつけられた呪霊は、さっきスズが飛ばした時よりもはるかに強い力で壁に激突したのだった。
「ひっ…!!(すごい威力…)」
「アイツのことは放っておけ。オマエは俺に集中しろ。」
「ええっ!?あ、あの、その、距離が…!」
「! …ふっ。スズ、オマエ…男とそういう関係になったことないのか?」
「そ、そういう関係って…!な、なかったら何ですか!!」
「全く…俺好みのいい反応をするな。何をしても、俺が最初の男というわけか…ますます気に入ったぞ、スズ。」
ゼロ距離で見つめられたり、髪を耳にかけられたり、逃げようとしても腰に回された腕のせいで逃げられなかったり…
今まで経験したことのないようなドキドキの連続で、すっかり顔が赤くなっているスズ。
そんな彼女を何とも愛おしそうに扱う宿儺は、距離を縮めたまま語りかける。
「直接触れ合って分かったが…オマエの呪力は俺と逆なんだな。」
「逆……あ、はい。正のエネルギーを帯びて、ます。」
「どうりで俺の関心を引くわけだ。おまけにそれがこんな初心な女と来た…」
「?」
「堪らんな。」
満足そうな笑みを見せながら、またスズを抱きしめる宿儺だったが、力を入れた瞬間"いてっ"という小さな声が聞こえた。
パッと体を離してスズの顔を伺えば、額に汗が滲み、表情も少し辛そうだった。
汗を拭ってやりながら、宿儺は優しく問いかける。
「アイツに吹っ飛ばされた時のケガ、治してなかったのか?」
「さっきは急いでたから…痛みを取っただけで、まだ治せてなくて。今から治す「待て。」
「へ?」
「俺が治した方が早い。さっきの領域展開で、だいぶ呪力を消費しただろ。」
そう言って肋骨辺りに手をかざし、力を込める宿儺。
続けて、出血を止めただけの頭部の傷にも同様に手を当て、あっという間に治療を完了した。
自分の治療時間の半分にも満たない時間で行われた処置に、スズは今の状況も忘れ素直に感動していた。
「すごい…こんな早くできるんだ…!」
「オマエの特殊な呪力なら、このぐらいすぐにできるようになる。」
「本当…?」
「ああ。何事にもコツはあるからな。」
「そっか…じゃあコツを掴めれば、今よりもっと強くなれるかな。」
「強くなりたいのか?」
「うん。仲間も増えたし、それに…背中を守りたい人もいるんだ。」
「…男か?」
「そうだけど…何でそんな不機嫌?」
「…面白くない。その男の名前を言え。殺してくる。」
「えっ!?な、何でそうなるんですか!待って…!」
突然立ち上がったかと思えば、宿儺は物騒なことを言いながら出口の方へ向かう。
慌てて後を追うスズに構わず足を速めながら、宿儺はあろうことか、いつの間にか戻ってきていた特級呪霊にも声をかけ、"一緒に行くぞ"と言い出した。
「おい、男とガキ共を殺しに行くぞ。付いて来い。」
「ちょっと!ガキ共って恵と野薔薇のこと!?駄目に決まってるでしょ!」
「またすぐ相手してやるから、少し待ってろ。」
自分の目の前に立ち、両手を広げて止めてくるスズの頭をポンと叩きながら、宿儺はまた歩き出す。
その時、ふと宿儺越しに特級呪霊を見たスズは、奴が呪力を溜めながら構えているのを発見した。
あれをそのまま撃ち込まれたら、虎杖の体が粉々になってしまう。
そう思ったスズは、バッと宿儺の背中を守るように走った。
「宿儺、危ない…!って、うわっ!」
「…馬鹿が。」
スズが特級呪霊の攻撃を防ぐための壁を作ろうとした瞬間、彼女の体は宿儺の腕の中に収まっていた。
そして左手首から先を治した宿儺は、相手を睨みながらその手で特級呪霊の攻撃を受け止める。
いとも簡単に攻撃が弾かれたことに驚く特級呪霊を完全に無視し、宿儺は右腕で抱き寄せたスズにまたちょっかいをかける。
「女に守られるのは初めてだが…なかなかいいものだな。」
「ゆ、悠仁の体を守ろうとしただけです…!」
「俺の名を呼んでいたのにか?」
左手で髪を耳にかけながら囁けば、宿儺のお気に入りはまた顔を赤くするのだった。
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