伏黒がスズを奥の部屋へ運んでから数分後、気を失っていた虎杖が目を覚ます。
無事に息を吹き返した彼を見て、乙骨も安堵の表情を見せた。
自分が生きているのが不思議でしょうがない虎杖に、乙骨はまず五条から相談を受けたことから話し始める。
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それは交流会開催を1週間後に控えた9月頃のこと。
任務のため海外に来ていた乙骨の元へ、五条が直々に会いに来たのだ。
「ちょーっと嫌な予感がしてさ。僕になんかあったら、今の1・2年のことを憂太に頼みたくて。」
「何かって…女性関係ですか?」
「…憂太も冗談言うようになったんだね。」
「いや、五条先生に"何か"って想像つかなくて。」
「特に1年の虎杖悠仁。あの子は憂太と同じで、一度秘匿死刑が決まった身だ。注意を払ってもらえると助かる。」
"分かりました"と返す乙骨に感謝を示しつつ、五条はもう1人気にかけて欲しい人物の名を挙げた。
それは、最近彼の心を占める割合が急速に大きくなった彼女のこと。
「…あともう1人、スズのことも守ってあげて欲しい。」
「それはもちろん守りますけど…何か特別狙われる理由でもあるんですか?」
「陰陽師であることに加えて、僕との関係が深いって上に思われてる。おまけに最近特級呪物にも気に入られちゃってね。」
「両面宿儺ですか…確かに特級の2人と関わりがあるとなれば、目はつけられちゃいますね。」
「…っていうのが半分。」
「? もう半分の理由は?」
「僕の私情。」
「え?」
「…好きなんだ、スズのことが。」
「! …それは1人の女性として、ですか?」
「うん。もちろん大事な生徒であることに変わりはないけど、最近それ以上の気持ちに気がついちゃってさ。
スズが傷ついたり、ましてや死んだり…そういう風になるのが嫌なんだ。スズのいない世界は……いらない。」
「(先生のこんな真剣な顔、久しぶりに見た…)好きなんですね、本当に。」
「そうだね〜めちゃくちゃ惚れてるかな。…意外?」
「はい。失礼ながら、先生はそういうタイプじゃないと思ってました。」
「僕もそう思ってた。愛ほど歪んだ呪いはないって…でもスズに出会って全部変わっちゃった。…今は命に代えても守りたいとさえ思うよ。」
「!」
「てことで、頼まれてくれるかな?」
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五条の直球で献身的な言葉に驚いたのを、乙骨は今でも鮮明に覚えている。
スズの話をしている時、自分達の担任だった時からは想像もできない程、彼は優しい顔をしていた。
その部分は省略して、乙骨は虎杖に事の経緯を伝えていく。
「そう…君の死を偽装するのはこれで二度目だ。すぐにバレるかもしれないけど、状況が状況だしね。
虎杖君の死刑は、とりあえずは執行済で処理されるハズだ。」
「…どうして、そこまでして。」
「僕が大切にしている人達が、君を大切にしているからだよ。僕も一度、身に余る大きな力を背負ったんだ。
でも背負わされたと思っていた力は、僕自身が招いたモノだった。君とは違う。君の背負った力は君の力じゃない。君は悪くない。」
「……違うんだ。俺のせいとかそういう問題じゃなくって…俺は人を…」
「虎杖。」
奥の部屋から戻って来た伏黒が声をかければ、虎杖は不安と恐怖と後悔と…様々な感情が合わさったような表情で彼の名を呼ぶ。
名前を呼ばれた彼は今までと同じように、何も変わらず自分に対して話しかけてくる。
それを止めないわけにはいかなかった。
「やめろ!当たり前のように受け入れるな。なかったことにするんじゃねぇ。俺は人を殺した!!俺のせいで大勢死んだんだぞ!!」
「…あの時、スズがやったことは覚えてんのか?」
「えっ。いや、一気にたくさん情報が入って来たから、詳しくは…」
「スズは宿儺が領域展開したタイミングで、ほぼ同時に正のエネルギーで領域展開をした。」
「!」
「そのお陰で一般人は宿儺の攻撃から守られた。ケガした奴もいたはいたが、どれもほっときゃ治る程度だ。そうですよね、乙骨先輩?」
「うん、被害はほぼないと言っていい。まぁその分、スズちゃんに対する注目は集まっちゃったけどね。
正のエネルギーの領域展開ってだけであり得ないのに、あれ程の規模でやってのけたから。」
「スズが、そんなこと…だからあんなに呪力がなかったのか?」
「そうだ。死ぬギリギリまで使ったらしい。…俺達はスズに救われた。スズがいなかったら、今俺だってこんなに普通に喋れてない。」
「スズの呪力…戻るまでにかなりかかるよな?」
「だろうな。あれでもだいぶマシになったぐらいだから。」
「…なら、呪力が戻るまで俺達でスズのこと守ろう。誰にも、指一本触れさせないように…」
「あぁ。俺もそのつもりだった。」
本来であれば、自分達の行動で多くの一般人が犠牲になるところだった。
それをたった1人で守り、かつ行動を起こした虎杖と伏黒の心までも救ったのだ。
"五条先生が好きになるわけだ…"
後輩2人のやり取りを聞きながら、乙骨は改めてそう思う。
やろうと思って出来ることではない。
そこには確かな技術と強い精神力、そして何より仲間を想う気持ちがないと成し得ないことだ。
そんな彼女のことを、この2人が何とも想ってないわけはない。
鈍感な方だと自覚する乙骨でも、彼らから伝わるスズへの想いは容易に感じ取れた。
さぁ、もうすぐその彼女が起きてくる頃だ…!
to be continued...
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