虎杖と伏黒の会話が一区切りついたタイミングで、奥の部屋から微かに物音が聞こえてくる。
毛布をめくる音、ベッドから降りる音、パタパタとこちらへ歩いてくる音。
そして…
「ごめん、恵!私、寝ちゃってた…!」
男性陣がいる部屋に、少し腫れぼったい目のスズが姿を見せた。
第85話 あの場所
伏黒が何か言葉を発する前に、スズの目はさっきまではいなかった人物を捉えた。
無事に帰って来た乙骨に笑顔を向けた後、反転術式で奇跡的な復活を遂げた虎杖に声をかけるスズ。
あの日の彼女の行動を知り、虎杖は向けられた笑顔により一層胸が熱くなる。
あれだけのことをしたのに、それを微塵も感じさせず接してくるスズに駆け寄った虎杖は、その体をギュッと抱き締めた。
「うわっ…!悠仁!?ど、どした?」
「……俺、あの日スズが何をしてくれたか知らなくて…今、伏黒から聞いた。」
「あ、そう…だったんだ。」
「ごめん…スズの呪力がこんなに減ってるの、俺のせいだったんだな。」
「それは違う。私が自分で決めたことだから、悠仁は何も悪くない。この前も言ったでしょ?悠仁は何でも決めつけ過ぎ。」
「だけど…」
「仲間を守るための当然の行動だよ。そこに使う呪力が偶々多かっただけ。もし逆の立場だったら、悠仁も私のこと助けようとしてくれるでしょ?」
「当たり前じゃん!!」
「ふふっ。そういうこと!…それより、私今欲しいものがあるんだけど。」
「欲しいもの?」
「うん。"ごめん"じゃなくて〜…ね?」
「! ……ありがとう、スズ。」
「それそれ!その顔が見たかった。どういたしまして!」
少し笑みを見せながらお礼を伝えた虎杖の頬を、スズは両手で優しく包み込む。
自分が待ち望んだ言葉と表情を見れたことで、満面の笑みと共に言葉を返すスズなのだった。
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さて、和やかな雰囲気はここまで。
そう言わんばかりに表情を切り替えると、伏黒は静かに自分が今考えていることを同期へと話し始める。
「前に言ったが…俺達は正義の味方じゃない、呪術師だ。」
「「…」」
「俺達を本当の意味で裁ける人間はいない。だからこそ俺達は、存在意義を示し続けなきゃならない。
もう俺達に自分のことを考えてる暇はねぇんだ。スズがあの日やったように、ただひたすらに人を助けるんだ。」
「うん。」「おう。」
「まず俺を助けてくれ…スズ、虎杖。」
突然の申し出に2人は目を見開く。
普段自分のことをあまり話さない彼からの頼み事は、これだけ一緒にいても片手で数えられる程度だ。
いつになく真剣な表情を見せる伏黒は、それから落ち着いたトーンで2人が不在の間に起こった出来事を口にする。
「加茂憲倫が仕組んだ、呪術を与えられた者達の殺し合い…"死滅回游"。"死滅回游"に津美紀も巻き込まれてる。」
「!」「えっ…津美紀さんが!?」
「頼むスズ、虎杖…オマエらの力が必要だ。」
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