続く言葉を発しようとした伏黒よりも先に、虎杖が不意に言葉を紡ぐ。
それは自分の中にいる、途轍もなく邪悪な存在についてだった。
「……乙骨先輩。宿儺が伏黒で何か企んでる。渋谷でアイツに肉体を取られたのは、多分一度に指を10本も食わされたからだ。
俺の中に今、指は15本。残り5本全部一度に食わされても、肉体は乗っ取られないと思う。それでも…
もし次俺が宿儺と代わったら、迷わず殺してくれ。先輩ならできると思う。」
「分かった。死力を尽くすよ。でもその頼み事は、スズちゃんにもしておいた方がいい。」
「え?」「私?」
「五条先生から聞いた…スズちゃんが宿儺に気に入られてるって。」
「あ、いや…一時的な気まぐれかもしれないですけど…」
「それでも…スズちゃんがいれば、"殺さない"っていう未来を選べる可能性は上がる。」
「少しでもその可能性があるなら、私もできる限りのことする!」
「…ありがとう。でも先輩、もしダメそうなら絶対にスズを守って。どんな状況でも、スズを最優先にして欲しい。」
「うん。そこは約束する。」
強い眼差しで乙骨との会話を終えた虎杖は、続けて伏黒へと視線を送る。
いよいよ本題…"死滅回游"に向けて自分達が何をすればいいのかを、伏黒が落ち着いた声で話し始めた。
未曾有の呪術テロである死滅回游をどうにかするには、やらなければいけないことが2つある。
1つは、五条が封印されている獄門彊の封印を解く方法を知ること。
もう1つは、加茂憲倫の具体的な目的と今後の出方を知ること。
これらに回答できるのは、天元様以外にはいないのだと。
「あの人は…九十九さんは知らねぇかな。」
「九十九さんとはもう話した。これはあの人の案だ。あの人も今、高専に潜伏してる。」
「潜伏?」
「上層部と関わりたくないらしい。」
「問題は天元様の"隠す"結界なんだ。シャッフルが繰り返される1000以上の扉の内1つだけが、天元様のいる薨星宮へと繋がっている。」
「それを引き当てなきゃ、天元…様に会えねぇわけか。……ごめん、伏黒。やっぱ今聞くわ。」
「?」
「釘崎はどうなった。」
「…」
「! そうか…分かった……分かった!!」
具体的なことは伝えなくとも、伏黒の表情から大体のことを悟った虎杖。
気持ちを抑え込むように手をギュっと握り締めると、彼は言い聞かせるように"分かった"と言葉を発するのだった。
「その"隠す"結界とやら…なんとかなるかもしれんぞ。」
「聞いてたんですね。」
「どういうことだ脹相。」
「以前真人が、宿儺の指と呪胎九相図を盗み出しただろう。それと同じことをする。」
「とりあえず高専に戻るぞ。…スズ、さっきから静かだけど大丈夫か?」
「…私は、皆とは一緒に行けない。」
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スズの思いがけない発言に、男性陣は揃って言葉を失う。
聞き間違いかと耳を疑う彼らに対し、さらにスズは"ごめん"と言葉を続けるのだった。
いち早く脳内を落ち着かせた伏黒が、顔を覗き込みながら静かに問いかける。
「理由は?」
「邪魔になる。」
「! なるわけないじゃん!何でそんなこと言うんだよ!」
「落ち着け、虎杖。どういう意味だ。」
「現状私は皆のことはもちろん、自分の身もまともに守れない。唯一の取り柄である治癒の力も、まだ満足に使えない。
話を聞く限り、今求められてるのはスピードだと思う。対応が後手に回れば、きっとそれだけ被害が増える。そんな状況で荷物を抱えてたら、動きが鈍るでしょ。」
「鈍るから何だ?それはオマエを1人にする理由にはならねぇ。自分が置かれてる状況分かってんだろ?」
「大丈夫!呪力がないことを逆手に取れば、そうそう見つからない。呪力が回復したら、すぐに合流「嫌だ。」
「へ?」
「…もう離れたくねぇんだよ、オマエと。」
「! 恵…」
「俺も嫌だ!スズの傍にいたい。」
「悠仁まで…」
「さっき虎杖と決めたんだ。一緒にオマエを守るって。」
「お願い…俺達にスズのこと守らせて。」
「…」
「スズにはいてもらわなきゃ困るんだ。今、日本中が殺気立っておかしなことになってる。オマエみたいな、人を笑顔にできる存在が必要なんだよ。」
「……本当に後ろくっついてくだけになるよ?」
「ふっ、いいよ。」
「…守ったり、治したりも出来ないよ?」
「いい!俺らが全部やる!」
「治すのは無理だろ。」
「そこツッコむなよ!」
「ありがとう。よろしくお願いします…!」
「おう!」「あぁ。」
1年生チームの微笑ましいやり取りを見つめる乙骨と脹相もまた、その表情は優しいものだった。
to be continued...
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