弟達の気配を探る脹相を先頭に歩いていた一行は、とある扉の前に辿り着く。

中を覗けば、暗い中に無数の大木が植わった異様な空間が広がっていた。


「すごい…何これ…」

「降りよう。奥に薨星宮へと続く昇降機があるんだ。」


驚くスズの肩にポンと手を置いた九十九は、そう言って皆を下へと連れて行った。

そして昇降機を使って、さらに下へと降りて行く。

機械の動きが止まると、一行はいくつかのトンネルが並ぶ空間に降り立った。


「血痕…?何かあったのかな。」

「12年も前の話さ。今思えば、全ての歪みはあの時始まったのかもしれない。」

「「?」」

「(ここってもしかして…悟先生が話してくれた、星漿体の子が殺された場所…?)」

「(スズは知ってるみたいだな。驚いた…五条君がそこまで彼女に話してるとはね。)さぁ皆、本殿はこの先だよ。」


チラッとスズへ視線を送った九十九だったが、表情を引き締めるとトンネルの奥へと歩き出す。

だがトンネルから出た場所は何もない、ただ真っ白な空間が続いていた。


「なんもねぇ。」

「これが本殿?」

「そんな感じはしないけど…」

「私達を拒絶しているのさ。天元は現に干渉しないが、六眼を封印された今なら接触が可能だと踏んだんだが…見通しが甘かった。」

「…」

「戻ろうか。津美紀さんには時間がない。」

「帰るのか?」

「「「!」」」

「初めまして。禪院の子、道真の血、呪胎九相図、稀有な陰陽師、そして…宿儺の器。」


突然聞こえた声に振り返れば、そこには4つの目を持った謎の人物が立っていた。

人なのか呪霊なのか判別のできない不思議な姿に、スズ達は息を呑む。

誰もが言葉を発せずにいる中、九十九だけが落ち着いた様子であった。


「私には挨拶なしかい?天元。」

「君は初対面じゃないだろう、九十九由基。」

「…何故薨星宮を閉じた。」

「羂索に君が同調していることを警戒した。私には人の心までは分からないのでね。」

「羂索?」

「かつて加茂憲倫。今は夏油傑の肉体に宿っている術師だ。」

「慈悲の羂、救済の索か…皮肉にもなっていないね。」

「天元様はなんでそんな感じなの?」

「(コイツよくこのタイミングで割って入れるな…)」

「(うわ〜悠仁って勇気ある〜)」

「私は不死であって、不老ではない。君も500年老いればこうなるよ。」

「マジでか。」


12年前、星漿体との同化に失敗してから老化が加速したという天元。

今や個としての自我は消え、天地そのものが自我となったのだと。

一行はそんな彼に、知っていることを話してもらえないかと、話の口火を切った。


「勿論…と言いたいところだが、1つ条件を出させてもらう。

 乙骨憂太、九十九由基、呪胎九相図…3人の内2人はここに残り、私の護衛をしてもらう。」

「護衛…?不死なんですよね。」

「封印とかを危惧してるんですか?」

「フェアじゃないなぁ。護衛の期間も理由も明かさないのか?」


不満そうな九十九の言葉を受け、天元はゆっくりと話し始めた。

羂索の目的は、日本全土を対象とした人類への進化の強制であること。

その効率的な手段として考えたのが、天元と人類の同化だった。

世界中の人間が進化し、新しい存在の形となった時…

1人でも暴走する者が現れたら、悪意は一瞬で伝播し、一億人の穢れが流れ出る。

羂索がこの計画を実行する理由は分からないが、実現すれば大変なことになるのは明白だった。


「でもそれって、天元様が同化を拒否すればいいだけじゃないっスか?」

「そこが問題なんだ。進化を果たした今の私は、組成としては人間より呪霊に近い。私は呪霊操術の術式対象だ。」

「「「!」」」

「羂索の術師としての実力を考慮すると、接触した時点で取り込まれるかもしれない。」


だから護衛が必要なのだと、天元は話を続ける。

羂索の計画に必要なピースが揃った今、満を持して彼は行動を開始した。

壮大な同化計画の"慣らし"として位置づけられる死滅回游は、人間達を彼岸へ渡す儀式である。

死滅回游の総則ルールにある"永続"は、この儀式を中断させないための保険なのだと。


「となると…」

「…だね。」


6、泳者プレイヤーは自身に懸けられたポイントを除いた100得点ポイントを消費することで管理者ゲームマスターと交渉し死滅回游に総則を1つ追加できる。


「僕らも死滅回游に参加して、津美紀さんやゲームに消極的な人が回游を抜けるルールを追加するしかない。」

「悟先生の方は?」

「それも並行で進める。あの人がいれば、1人で全て片が付く。」

「天元様…」

「その前に誰が残るか決めてくれ。」

「「私/俺が残ろう。」」


九十九と脹相が名乗りを上げ、存外あっさりと護衛任務に関して決着がついた。

そのことに安堵した天元は、お礼を言いながら空間の裂け目に手を入れ、ある物を取り出す。

天元の手が掴むものを見た瞬間、スズの脳内には思い出したくないあの悲しい光景が駆け巡った。


「…これが、五条悟の解放…そのために必要な獄門彊・"裏"だ。」

「"裏"!?」

「初耳だね。」

「裏門ってこと?」

「そうなるね。羂索に見つかる前、獄門彊は私の結界の外…恐らく海外にあった。

 この裏門を封印することで表の気配を抑えていたんだが無駄だったね。この裏門の中にも五条悟は封印されている。」

「ここに悟先生が…!」

「え、じゃあこれを開ければ!?」


パッと顔を輝かせるスズと虎杖だったが、あくまで開門の権限は表の方にあるのだと天元は告げた。

これを抉じ開けるには、特殊な術式を持った呪具が必要となる。

しかし2つある呪具のどちらも当の五条によって破壊もしくは封印されてしまい、手段としては使えない。

担任のあまりの破天荒さにギャーギャーと文句を言う虎杖と伏黒の傍で、スズは悲しそうに言葉を漏らす。


「そんな…こんなに近くにいるのに…」

「「スズ…」」

「…天元様、少しだけその獄門彊を持たせてもらってもいいですか?」

「あぁ、構わないよ。」


天元から渡された獄門彊・"裏"を両手で受け取ると、スズはギュッとそれを包み込む。

見た目も大きさも、あの日大切な師匠を奪った獄門彊とそっくりだ。

それが今自分の手の中にあるのに何もできないという現実を突きつけられ、鼻の奥の方がツンと痛む。


「(泣くな、私!大丈夫、他にも絶対方法はある!皆もいる!……でも、少しだけ吐き出していいかな…)会いたいよ、先生…」

"俺もスズに会いたい"

「!」


誰にも聞こえないよう小さな声で呟いた言葉に、聞き慣れた声で返事が来た。

いや、正確には"来た気がした"というのが正しい。

実際に起きた出来事としては、裏門が少し動いただけなのだから。

それでもスズには確かに届いていた…幾度となく彼女の涙を止めてきた、あの低く落ち着いた声が紡ぐ優しい言葉が。



to be continued...



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