"俺もスズに会いたい"
自分だけに聞こえた、懐かしい五条の声。
突然の出来事への驚き半分、そこに五条がいるという喜び半分で、スズはじっと裏門を見つめていた。
そんな彼女の様子をマイナスの方に誤解した九十九が、見かねたように天元へと声をかける。
「(気持ちが落ちるのも無理はないな…)手はあるんだろ?」
「あぁ。死滅回游に参加している泳者の中に、"天使"を名乗る千年前の術師がいる。彼女の術式は、あらゆる術式を消滅させる。」
この"あらゆる術式"の中には、当然獄門彊・"裏"も入っている。
つまり彼女がいれば獄門彊・"裏"を開けることができると、天元は静かにそう告げた。
第87話 死滅回游について
まだ五条を助け出す方法があると知り、スズの表情は少し明るさを取り戻す。
お礼を言いながら獄門彊・"裏"を返す彼女をチラッと見やりながら、伏黒は天元へ"天使"の居場所を尋ねた。
自分自身が回游の結界に拒絶されているから、東京の東側の結界にいるという以上の情報はないと天元は言葉を返す。
「全国10の結界…それが日本の人間を彼岸へと渡す境界を結ぶ結界と繋がっている。」
「あ、八十八橋の時の…!!」
「確かにあれも境界が絡んでた…つまり今日本海側にある境界を、反対の太平洋側に持っていこうとしてるってことですね。」
「そう。"彼岸へ渡す"と聞くと仰々しいが、日本にいる人間全員に呪いをかけて、同化の前準備をしているのさ。」
「儀式が終わるまでどのくらいかかりますか?」
「回游次第だが、2月もあれば済むだろう。」
1、泳者は術式覚醒後、19日以内に任意の結界にて死滅回游への参加を宣誓しなければならない。
「今、11月9日の午前9時だ。」
「泳者の術師が覚醒したのは、10月31日24時頃。」
「津美紀さんもその日に覚醒した…」
「あぁ。だから津美紀が回游に参加するまでの猶予は、ざっと10日と15時間。」
2、前項に違反した泳者からは術式を剥奪する。
「天元様はさっき、参加を拒否すれば死ぬと言ってましたよね。」
「あぁ。」
その後も全員で、死滅回游の総則を1つ1つ確認し、整理していく。
どの総則に、どうアプローチすれば、死滅回游を少しでも良い方向に持っていけるか…
今ある総則の穴を突いて、こちらに有利な状況を作るにはどうしたら良いか…
天元を中心にして皆が意見を出し、話し合いは進んでいった。
ここで残りの総則も書いておこう。
3、非泳者は結界に侵入した時点で泳者となり、死滅回游への参加を宣誓したものと見做す。
4、泳者は他泳者の生命を絶つことで点を得る。
5、点とは管理者によって泳者の生命に懸けられた価値を指し、原則術師5点、非術師1点とする。
6、泳者は自身に懸けられた点を除いた100得点を消費することで管理者と交渉し死滅回游に総則を1つ追加できる。
7、管理者は死滅回游の永続に著しく障る場合を除き、前項によるルール追加を認めなければならない。
8、参加または点取得後、19日以内に得点の変動が見られない場合、その泳者からは術式を剥奪する。
「最後のってさ…一度参加したら、点を取り続けないと術式を剥奪されて死ぬ…ってことだよね。」
「うん。また…人を殺さなきゃいけないのか。」
「いや…いくつか考えがある。」
同期2人の不安そうな表情を他所に、そう言った伏黒の顔はとても落ち着いていた。
- 252 -
*前次#
ページ:
第0章 目次へ
第1章 目次へ
第2章 目次へ
第3章 目次へ
第4章 目次へ
第5章 目次へ
第6章 目次へ
章選択画面へ
home