秤金次の元へ向かう虎杖・伏黒・スズの1年トリオは、出発前に彼の居場所を天元へと尋ねた。
天元によれば、秤は今栃木県の立体駐車場跡地で賭け試合の胴元をしているとのこと。
「賭け試合?」
「術師同士の殴り合いだ。」
「それって客は…」
「基本的に非術師だな。」
「おもっ切り呪術規定8条の"秘密"に抵触してるじゃないですか。」
「やっぱり秤先輩って破天荒なんだね〜」
「賭け試合の参加者の中には呪詛師もいるだろう。用心していきなさい。」
親のような天元の言葉に、3人は礼儀正しく返事をした。
第88話 賭け試合 ー前ー
「でもさ、栃木に立体駐車場跡地っていくつあんの?片っ端から当たってく時間ねぇよな。」
「そうだな。もう少し絞れれば…」
「私、いけるかも!」
「「!」」
「秤先輩に会ったことないからハッキリ断定するのは無理だけど、異質な呪力を捜すだけなら結構広い範囲で分かる。
栃木は東京よりも術師が少ないと思うから、変な呪力は目立つだろうしね!」
「スズ、すげー!これならだいぶ早く見つかるよな!」
「あぁ、助かる。ありがとう、スズ。」
「どういたしまして!よっしゃ。頑張ってこー!」
「さすがは陰陽師だな、木下スズ。」
3人の会話がひと段落したタイミングで、不意に天元が口を開いた。
突然名前を呼ばれ驚いたスズが振り返れば、天元は穏やかに微笑みかける。
「渋谷での活躍は耳に入っている。正の領域展開ができるそうだね。」
「あ、はい!」
「両面宿儺に対抗できるというだけでも驚きだが、それを正の呪力でやるとは…素晴らしい力を持っているね。」
「ありがとうございます…!」
「でもそのせいで、今スズの呪力空っぽなんだ。何とかなんねぇかな…!」
虎杖の切実な表情と言葉に、天元は少しの間スズの体内を探るように4つの眼でじっと見つめる。
呪術界の要である天元なら、何か良い方法を提案してくれるのではと、虎杖だけでなくその場の全員が期待を込めて彼の返答を待った。
だが返ってきたのは、ポジティブな答えではなかった。
「……残念だが、私にはどうすることもできないようだ。」
「そっか…」
「彼女の中は今五条悟と両面宿儺の呪力が入り混じり、かなり特殊な状態になっている。
おまけにその2つの呪力が彼女を守るように、他者の侵入を拒んでいるようだ。下手に私の呪力を入れれば、彼女に影響が出るかもしれない。」
「私を守ろうとしてる…?」
「あぁ、そういう印象を受ける。だから本人達から呪力をもらうのが一番安全で確実だろう。力になれなくてすまないね。」
「いえ…!」
天元の言葉を聞き、そっと胸に手を当てるスズ。
各界で最強と謳われる人物が、姿形はなくとも自分を守ろうとしてくれている…
胸の中心がほんのり温かくなった気がして、スズは少し笑みを見せた。
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