天元や他の面々と別れた3人は、一路栃木へ…
とは言ったものの、そう簡単な話ではない。
この事態で交通インフラがまともに動いているところは限られているし、道中には未だ大量の呪霊がうろついている。
そんな中を時に走り、時に交通インフラを使い、時に呪霊退治をし…と3人は進んで行った。
そうして気づけば出発してから12時間以上が経過し、現在の時刻は夜の11時。
辺りはすっかり暗くなり、呪霊の動きが活発になってきていた。
「このまま移動するのは得策じゃない。一旦そこのホテルで仮眠しよう。」
「そうだな〜腹も減ったし。俺コンビニで適当に食いもん買ってくるから、2人は先行ってて!」
「分かった。」「ありがと!」
元気に走って行った虎杖を見送り、スズと伏黒は近くにあったビジネスホテルへと入って行く。
中はところどころ電気が切れていて、お化け屋敷の初級レベルといった感じ。
部屋は当然の如くどこも空いているため、普通に考えれば男女で分かれるところだが…
「…」
「部屋、俺らと一緒にするか?」
「お願いします!!…これは1人じゃちょっと寝れないかも。」
「ふっ、だと思った。オマエ意外と怖がりだもんな。」
「よく分かってらっしゃる…」
ドアの前で表情を強張らせるスズを横目で見ていた伏黒は、サラッと同室を提案した。
食い気味に返事をする彼女に笑みを見せながら、その頭を優しく撫でる伏黒。
そんな彼女と共に部屋へ入ると、室内は思っていたよりもしっかり原型を留めていた。
電気は生きていたが、呪霊が集まると厄介なため、部屋の明かりは最小限だ。
疲れた体を預けるように並んでソファに座ると、道中で聞いた伏黒の当主就任についてスズが口火を切った。
「改めてだけど…当主就任おめでと。」
「どーも。めでたいのかどうか分かんねぇけどな。」
「でも悟先生が残した最後の切り札でしょ?きっと恵だけじゃなくて、真希先輩や真依さんのことも考えて、これが一番だって思ったんだよ。」
「まぁそうなんだろうな。…だとしても、一言ぐらい言っとけって感じだよ。」
「ふふっ。そうだね。」
体勢を少し前屈みにした伏黒は、明るく笑うスズの顔を覗き込む。
視線に気づいたスズが"ん?"と問いかければ、彼は穏やかな声と表情である質問を投げかけた。
「…まだ答え出てないよな?」
「答え?」
「俺の告白に対する答え。」
「! あ、うん、まだ…ご、ごめん。」
「違う、責めてるわけじゃない。…当主になったことが、マイナスに働いたら嫌だなって思っただけ。」
「え、何でマイナス?」
「だって嫌だろ、御三家の当主が彼氏なんて。面倒なのが目に見えてる。」
「…確かに御三家の雰囲気とか、しきたりがあるのかとか、分かんないことは多いけど…
それが理由で恵を嫌いになったりしない。だって御三家も当主も、あとから恵にくっついてきたことでしょ。
私が昔から知ってる恵は、やんちゃでお姉さんの言うこと聞かなくて、でもいつでも冷静で頼りになる仲間想いの普通の男の子だから。
私の中ではそれが全てで、そこに対する感情はちょっとやそっとじゃ変わらないよ?」
「スズ…」
「…むしろ私の方が、恵に嫌われていってるんじゃないかって思ってる。」
「はっ!?何でだよ!」
「だって…なかなか返事も伝えられないし、どっちつかずな態度で傷つけちゃってると思うから……ごめんね。」
「オマエは今、いろんな奴から想いを伝えられてんだ。悩んで当然だろ?…んな理由で、諦めてやんねーからな。」
「! …うん、ありがとう。」
照れ臭さを隠すようにお互いが下を向いたまま、静かな時間が流れていく。
と、不意に伏黒がスズの肩に頭を乗せた。
「恵…?」
「…虎杖が来るまで、こうしてたい。ダメか?」
「いや、ダ、ダメじゃない…!」
「ありがとな。」
そう言った伏黒の顔は、とても幸せそうだった。
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