支度を整えホテルを出た3人は、途中で朝食を取りながら再び移動を開始する。
幸い新幹線が動いていたため、数時間後には無事栃木へ降り立つことが出来た。
着いて早々、スズは意識を集中して異質な呪力を探る。
何ヵ所か怪しい場所はあったが、その中で立体駐車場跡地は1か所だけだった。
「もっと時間かかると思ってたけど、めっちゃ早かったな!」
「あぁ、スズが場所絞ってくれたお陰だ。ありがとな。」
「どういたしまして!役に立てて良かったよ。」
そんな会話をしながら、3人は跡地近くの茂みで着替えをしていた。
何故着替える必要があるのか問いかける虎杖に、伏黒は高専関係者だとバレないためと答える。
「秤さんは上とモメて停学くらったんだ。呪術規定も現在進行形で破ってる。
高専関係者ってバレたら逃げられるかもしれない。ケーサツとドロボーみたいなもんだからな。」
「んー?俺達って今高専側?」
「グレーだが、少なくとも秤さんから見たらクロだろ。」
「そもそも協力してくれるような人なの?」
「どうだろうな。やってることがやってることだし。先輩達はみんなろくでなしって言ってる。
でもあの乙骨先輩が自分より強いって言ってるんだ。戦力として絶対欲しい。あ、それともう1つ。スズの名前と性別は隠しておいた方がいい。」
「え?何で?」
「私、そんなにヤバイことになってる…?」
「そうじゃない。真希さんや九十九さんが言ってただろ。スズの名前は、五条先生絡みで意外と知れ渡ってる可能性がある。
秤先輩がスズのことを知ってたら、名前出した瞬間終わりだ。問題は顔まで知ってた場合だが…」
「九十九さんは知らなかったよな?」
「そうなんだ。だから俺はいけると思ってる。」
「性別隠すのは?」
「やってる内容が内容だ。女は出入り禁止とか言われたら、スズと一緒に行動できなくなる。」
「…やっぱり私、ここで待機してた方が「ダメだ。」
「いや、でも…」
「守るって言っただろ。1人で置いてくなんてありえねぇ。」
「んーじゃあさ!俺のパーカー着てフード被ってたらいいよ!そうすりゃ少しは顔隠せるっしょ。」
そう言いながらスズにパーカーを渡した虎杖は、早速着替えた彼女にフードをかぶせた。
メンズサイズということで顔の上半分はすっぽり覆われ、おまけに体の線も隠れるため女性とバレず、一石二鳥である。
そうして衣装替えをした3人は、いよいよ相手の本拠地へと乗り込んだ。
地下駐車場の入口には、門番のような大柄で屈強な男とスーツ姿の小柄な男がいた。
「帰れガキんちょ。ここは溜り場には向かねぇよ。一二の三で回れ右だ。それ以外の選択肢は俺に殴られる。」
「金がいる。ここでやってる賭け試合に出場させてくれ。」
「「(ん?)」」
突然訳の分からないことを言い出した同期に、スズと虎杖は顔を見合わせた。
と、そんな2人を他所に、大柄な男が突然伏黒に殴りかかってくる。
寸止めした拳に全く動じず、表情を変えない相手に対し、男は言葉を投げかける。
「ルールその1"賭け試合について口にしてはならない"…答えろ。誰に聞いた。オマエを殴るのはその後だ。」
「名前は知らない。殺したから。」
「!」
「一月くらい前だ。威勢だけのクズがいたろ。その穴を埋めてやる。なんなら胴元の前でアンタを転がしてみせようか?」
「(そっか。いきなり会わせてくれって言ったら警戒されるか。秤って名前も知ってちゃダメか。黙ってよっと。)」
「(恵、さすが…!出しゃばって"秤先輩いますか!"とか聞かなくて良かった…!)」
「そこまでだ。胴元からお許しが出た。今日のシード枠にそいつを当てる。ただし出場るのはソッチだ。」
「(好都合。試合は虎杖の方が適任だ。)駄目だ、俺が出る。」
「胴元がテメェは食えねぇとよ。嫌ならこの話はなしだ。」
「…分かった。それでいい。」
「それと…そのフードの奴は誰だ?」
「俺の弟!ちょっと体弱くてさ、1人にさせたくないんだよね。一緒に連れてっていい?」
「…変な動きをしたら殺す。」
「分かった、それでいい。」
強い眼差しでそう言った虎杖は、隣に立っていたスズの手をギュっと握った。
試合開始までまだ少し時間があったため、一旦3人はその場を離れるのだった。
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