緊急事態を知らせるためスマホを取り出した綺羅羅だったが、その前にもう1つやることがあった。

それは、今自分の隣にいる虎杖の弟を守ること。

先程彼が中学生だと言っていたことから、綺羅羅は"弟は高専関係者ではない"と判断した。

例え兄が関係者だとしても、彼自身には何の罪もない。

そんな普通の中学生である彼を巻き込むのは彼女の信念に反した。


「弟くん!さっきのとこまで戻って、部屋の中に入ってて!」

「えっ…!」

「早く!ここにいたら危ないから!」

「(私のこと本当に悠仁の弟だと思ってるんだ…!だから中学生設定の私は高専関係者じゃないと思った…)」

「(スズがどんな演技したか知らねぇけど、相当上手くやったんだな。部屋の中にいれば、スズに危険が及ぶことはない。好都合だ)」


バレない程度に伏黒へ視線を向けたスズは、彼が小さく頷いたのを見て取った。

そして先程虎杖に対してしたのと同じようにアイコンタクトを交わしてから、部屋へ続くドアに向かって走るのだった。


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部屋の中に入って数分も経たないうちに、外からは大きな音や声が聞こえてくる。

綺羅羅の術式がどんなものか分からないが、チーム1年の頭脳である伏黒ならきっと見破れる。

同期の力を信じ、スズは虎杖と秤がいるであろう部屋の方へと向かった。


部屋の前に立ったスズは、2人の声が外に一切漏れてこないことにガッカリする。

防音構造にでもなっているのか、ドアに耳を当てて意識を集中しても、ザワザワと声にならない音が聞こえてくるだけだった。

それからどのぐらいの時間が経っただろうか。

不意に中から感じる呪力が殺気立ったものに変わる。


「(変わったのは秤先輩の呪力だけ…てことは、悠仁が何かマズイことでも言ったか?)」


虎杖はネアカの優しい性格だが、伏黒ほど頭の回転が早いわけではない。

秤に上手く誘導されたら、簡単にボロを出してしまう可能性があった。

と、急激に呪力が上がったかと思った次の瞬間…!

ドアがぶち破られ、明らかに殴られた様子の虎杖が中から飛び出して来た。


「(悠仁…!)」

「スズ!危ないから離れてて!!」

「!……スズ?」

「あ、ヤベっ…!」

「スズ…スズ…あ〜どっかで聞いたことある名前だと思ったら、五条悟の周りでよく聞く名前だ。」

「…」

「オマエ…木下スズだな。」


そう言うと同時に、手近にあった小さいグラスをスズの方へ投げつける秤。

間一髪で避けたため顔に当たることはなかったが、被っていたフードのてっぺんに当たり顔が露わになった。

すまなそうな表情を向けてくる虎杖を安心させるように笑顔を向けてから、バレたならしょうがないと腹を括ったスズは話し始める。

だがすっかり冷めきっている秤にはどんな言葉も届かない。

むしろ標的をスズに変えて、襲いかかって来ようとさえする。

そんな彼とスズの間に入った虎杖は、口元の血を拭いながら強い眼差しを向けた。


「止まれよ。」

「あ?」

「これ以上スズに近づくな。」

「へぇ〜オマエ、そいつに惚れてんのか?」

「…そうだよ。だったら何だ。」

「惚れた女の前でボコボコにされるとか…ますます冷めるわ。」


怒りと呆れが混ざったような顔でそう言った秤は、再び拳を握る。

スズに今一度離れているよう伝えると、虎杖はある覚悟を決めて秤と向かい合った。



to be continued...



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