"これから俺が何されても、そのまま見守ってて欲しい"

小声で虎杖からそうお願いされたのが、つい数分前のこと。

今その彼は、秤によってしこたま殴られていた。





第91話 部品





秤からの打撃に対し、最小限のガードや受け身しかしていない虎杖は、瞬く間にボロボロになっていく。

同期が一方的にやられる姿に胸を痛め、スズは何度も駆け寄りそうになる。

それでも何とか踏み止まっているのは、冒頭のお願いの後に続いた彼の言葉があるからだ。


"これは俺を認めさせる儀式だから"


真っ直ぐにスズの目を見て話す虎杖からは、とても強い覚悟を感じた。

男が一度決めた覚悟を簡単に踏みにじる程、スズは野暮な女ではない。

だがそんな気持ちを押しやるような大きな音と共にドアが破壊され、秤に殴られた虎杖が屋上の方へ吹っ飛ばされた。


「悠仁…!」

「虎杖!?(スズのフードが取れてる…バレたか)」

「伏黒、パンダ先輩…手ェ出すなよ」

「「!」」

「ナメるじゃねぇか」

「スズのことだけ頼む」


視線は秤に向けたまま、虎杖はそれだけ伝えた。

ツラそうな表情で2人を見つめるスズの様子から、何かあったのだろうと察した伏黒。

指笛でスズの気を引くと、呼び出した"蝦蟇"の舌で彼女を自分の方へ引っ張り上げた。


「ありがとう…!」

「あぁ。ケガは?」

「大丈夫。私はどこも何ともない」


想い人の無事に安堵したのも束の間、下ではまた1発…秤の重い打撃が虎杖にモロに入った。

信じられないような音と衝撃で殴られる虎杖を目の当たりにし、思わず身を乗り出す伏黒とパンダ。

秤の仲間である綺羅羅ですら表情が引きつっていた。


「あんなのもらい続けてたら死ぬぞ…!」

「でも行っちゃダメ!何されても見守るって約束したの」

「…オマエの方がよっぽどしんどい顔してんじゃねぇか」

「しんどいよ。本当は今すぐにでも治療してあげたい…でも悠仁の覚悟を無駄にする方が、もっと嫌だから」


爪が食い込むぐらいに手を握り締めて2人のやり取りを見守るスズに、伏黒もパンダも何も言えなくなった。

彼らに両側から頭を撫でられる彼女に何かを思ったのか、突然綺羅羅が秤に声をかける。


「金ちゃん!!この子達、金ちゃんに助けてほしいんだって!!話を聞いてあげて!!」

「今聞くつったろ」

「…じゃあいいのか?」

「なぁ虎杖、なんで俺だよ。俺達初対面だよな?なんで俺を頼る」

「先輩達がアンタを強いと言ったからだ」

「だと思ったよ」


呆れたような口調でそう言った後、秤はまたしても強烈な一撃を放った。

さっきと同じように地面に転がされた虎杖は、それでも尚立ち上がる。

その顔は痣だらけで、鼻血は止まる気配すら見せず流れ続けた。


「術師が術師にするお願いは、"一緒に命を懸けて下さい"が前提だろーが!!

 テメェは俺に命を懸けさせるだけの"熱"を今!!ここで!!伝えなきゃなんねぇんだよ!!

 それを言うにこと欠いて人に言われて来ましただぁ!?夜蛾のオッサンは何してんだよ!!こういうヘタレは間引いとけや!!」

「俺に熱なんてねぇよ」

「あ"?」

「俺は部品だ。術師が呪いを祓うため、祓い続けるための部品」

「オイオイオイ…マジかオマエ。超つまんねぇじゃん!」

「うぅっ…」

「(このまんまじゃスズまでおかしくなる…!)虎杖!!もういい!!」


伏黒がそう叫ぶものの、虎杖はまたノーガードで秤の一撃を受けた。

これまでで一番の威力で放たれた打撃に、虎杖の体はもの凄い音と共に壁に激突した。


「痛ぇだろ。五条さんが言うにはな、俺の呪力は他の奴よりザラついてるらしいぜ。

 ……死んだか?おいパンダ!!…とウニ頭に木下スズ!さっさと虎杖連れて失せろ。二度と…っ!」


何かを察した秤が後ろを振り返れば、そこには再び立ち上がった虎杖がいた。



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