「警戒すべきは受肉した過去の術師だ」

「確かにそうだね…どういうモチベーションで来るか分かんないし」

「あぁ」

「俺もそう思ったぜ。説明してくれだぜ、伏黒君」

「…分かってねぇな」「ふふっ」


1人意味が分かっていない虎杖に、過去の術師を警戒する理由を伝える伏黒。

今とは命の価値が全く異なる時代を生きていた術師達。

死を恐れない人間がこの死滅回游に入ればどうなるか…伏黒が警戒しているのはそこだった。


「鹿紫雲や日車は過去の術師の可能性が高い。まともな交渉は期待するな」

「あと好戦的なのは呪霊か」

「特に夜はな。津美紀と同じ巻き込まれた現代人の術師なら、むしろ積極的に情報交換できると思う」


そんな会話をしているうちに、東京第1の結界前まで到着する。

軽くノックをすれば、虎杖に憑いているのと似たコガネが姿を現した。

結界に入るのか?と問いかけるコガネに返事をし、早速中へ足を踏み入れようとしたのだが…


「あ、待って。スズが来てねぇ」

「ん?何で後ろなんか見てんだ?」

「さぁ?別に何もいねぇよな。スズー!行くよー!」

「あ、はーい!」

「虎杖、まずは日車の情報収集だ。スズは絶対に俺達から離れないこと。…行くぞ」

「応!!」「うん!!」


駆け寄って来たスズにもコガネが憑いたのを確認し、いよいよ3人は結界内へと入っていく。





第93話 東京第1結界@





水の中に入るような感覚で結界を通り抜けたスズは、すぐに自分の周りで起きている異常事態に気づく。

さっきまで両脇にいた同期2人がいない。

少し前どころか数秒前まで隣にいたのに、結界に入った途端姿が見えない…そんな信じられないことが起こったのだ。


「嘘でしょ…もう恵との約束破っちゃったんだけど」


訳が分からないながらも、スズは冷静に呪力を探る。

その結果分かったことは、2人がスズからはもちろん、お互いもかなり離れた位置にいるということだった。


「(結界に入るといろんな場所に飛ばされちゃうのかな…)」


ではどうして2人だけが飛ばされ、自分は普通に入れたのかという謎は残るが、ここでずっと考えていても仕方がない。

頭を切り替えたスズは、情報収集のためとりあえず歩き始めた。


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結界に入ると同時に空中へ放り出された虎杖。

スズの考えは正しく、死滅回游の結界は泳者を9つの地点にランダムに転送する仕掛けになっていた。

だが虎杖にとっては、いきなり落下している自分の現状よりも、同期がいないことの方が衝撃的だった。


「(2人がいねぇ!?いや伏黒はまだしも、スズといきなり離れるとか、何やってんだ俺は…!)」


パッと見た範囲にスズの姿はない。

絶対に守る、離れないと誓った相手と開始数秒で離れ離れになったことに、虎杖は焦りの表情を見せる。

1秒でも早く合流したい…!

そんな想いを嘲笑うように、謎の男女が空中で無防備な状態の彼に襲いかかろうとしていた。


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最後の1人・伏黒もまた、同期と離れ離れになったことに戸惑いを見せる。

だがこちらも考えをまとめる時間を与えず、謎の女が襲いかかって来た。

手持ちの呪具で軽くあしらえば、女は殴られた頬を押さえながらメソメソと泣き言を言い始める。


「いたぁい。いたいよぉ。どぉしてこんなことするのぉ??」

「そっちが襲ってきたんだろうが

(クソッ…想定外のはぐれ方をした。虎杖はともかく、スズと離れたのはマズイ。1人にしないってあんだけ言ってたのに…!

 鵺でも見つけられない…死滅回游の結界は渋谷よりずっと広い。多分2km以上離れているな…)」


スズの結界行きは、自分達が死ぬ気で守ることを条件に秤から許しをもらったのだ。

なのにその相手とこんなに早く離れることになるとは…

自分の不甲斐なさにイラだつ気持ちを抑え、伏黒は決意する。

情報収集をしつつ、迅速かつ確実にスズと合流する…!

今の伏黒に、目の前の女に構っている時間は1秒たりともなかった。



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