さっき座った公園のベンチで、スズは目を覚ました。
横になっていた体を起こし、意識がハッキリしてくるのを待つ。
宿儺が言っていた通り、こちらに戻って来たスズの呪力はほぼ完全に回復していた。
久しぶりの感覚に少し戸惑いながら、手をグーパーするスズ。
そんな彼女の頭上に、何故かコガネは憑いていなかった。
第94話 東京第1結界A
呪力が戻ったとなれば、やることは1つ。
スズはしばらく会えずにいた、長年の相棒達を明るい声で呼び出した。
「皆、お待たせー!」
『スズ!!』
「おわっ、カグツチ!」
『久しぶりだね〜スズ!元気だった?』
「ツヌグイ!うん、いろいろあったけどね…私は大丈夫。元気!」
『思ってたよりもずっと早かったわね。完全回復までもっとかかると思ってた。宿儺?』
「うん。今まで宿儺の生得領域にいて、呪力貰ってた。」
『本当に宿儺はスズのことが好きですよね〜これが無償の愛ってことなのかしら。』
『あの呪いの王にここまで気に入られるとは、さすが僕らの主ですね。…そろそろ離れたらどうですか、カグツチ。』
『うるせぇ。ずっと会いたかったんだから、まだいいだろ。…スズ〜もう離れたくねぇよ。』
「カグツチ…」
『この子、あの日からずっとスズに会いたいってうるさくてさ。大目に見てやって。』
「そうだったんだ…ごめんね。もう無茶しないようにする。」
『させねぇよ。もうスズに無茶なんかさせない。これからはまた、俺達がオマエのこと守る。』
強い眼差しでそう言ったカグツチの言葉に、他の五行達も笑顔で頷いて見せる。
スズの傍へ寄り添う四獣達も、言葉は話せないながらも同じ意志であるということが伝わってきた。
以前と変わらない式神達の優しさに、スズは胸の奥が温かくなる。
お礼を言いながらカグツチに抱きつけば、彼も嬉しそうに主を受け止めるのだった。
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ようやくカグツチが落ち着き、主から離れたのをキッカケに、一同は話し合いの場を設けた。
一旦四獣を戻したスズは、あの日以降に起きた出来事をゆっくりと話し始める。
この数週間で起こったこととは思えないような内容に、長年生きている五行達と言えど驚きを隠せない。
『知ってる奴がそんなに死んだのかよ…許せねぇ。』
『その羂索とかいう術師、随分好き勝手やってるんですね。』
『でも悟を封印する手段だけ見ても、相当頭が切れるわ。』
『それでその頭のいい変態術師さんがゲームを始めて、それにスズも参加してるってことですか〜』
「うん。ここ以外の結界にも、先輩達がそれぞれ参加してる。」
『…で、一緒に入ったはずの悠仁と恵はどこ行ったんだい?』
「それが…」
この結界に入った瞬間にはぐれたと伝えれば、案の定カグツチが怒り出した。
"スズと簡単に離れやがって!"とまた興奮状態になる彼に、スズは"不可抗力だから!"と言い聞かせる。
主の言葉に何とか納得はしたものの、カグツチは再びスズにくっついて離れなくなってしまった。
『悠仁も恵も、俺が一から鍛え直してやる…!』
『鍛える鍛えないはどうでもいいけど、早いとこ2人と合流した方がいいわね。』
「私もそう思う。宿儺のことがあるから、まずは悠仁のところかなと思ったんだけど…」
『何か心配事でもあんのかい?』
「恵の周りに強めの呪力が集まって来てるの。大勢を相手にしてるんだとしたら、ちょっと心配かなって…」
『なるほど…スズの呪力さえ大丈夫なら、僕とクグノチがそっちの様子を見に行きますよ。』
『え〜私、スズと一緒に行動したいです〜』
『そんなの全員そう思ってます。でもカグツチは絶対スズから離れないし、暴れた時に止めるのはワダツミとツヌグイが適任です。
一方で君には少しだけ治癒の力があるでしょう?恵がケガしていた時にフォローできる。』
『ん〜それならしょうがないか〜』
『どうですか、スズ?』
「私は全然問題ない!2人がいいならぜひ行ってもらいたい。」
スズの言葉に天津麻羅とクグノチは笑顔で言葉を返してから、早速伏黒の呪力を辿りそちらへ向かった。
残された4人もまた、すぐに行動を開始する。
しかし張り切って朱雀で行こうとするスズを止めたワダツミは、白虎で移動するよう助言した。
「何で?」
『朱雀は目立つでしょ?見つかって戦うことになったらどうするの。まだ本調子じゃないんだから、術師に会わないに越したことはないわ。』
『別に俺がいるから平気だって!』
『あんたは黙ってな!必要以上の呪力消費は命取りになるからね。あたしもそれがいいと思うよ。』
「そっか…!分かった!ありがとう。」
『じゃあ私達は一旦引くわね。何かあったらすぐ呼んで?』
口喧嘩をするカグツチとツヌグイを連れたワダツミは、そう言って姿を消した。
その後スズはすぐさま白虎を呼び出し背中に乗ると、虎杖の呪力を追って走り出した。
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